前回の記事では、ソーシャルメディアをつかったクチコミマーケティングのROIを明確にする方法については書きませんでした。
今回は、それについて書きます。そして、ソーシャルメディア・マーケティングで、アメリカでいま、最も堅実的で効果的だとみなされている戦術についても書いてみたいと思います。
クチコミといっても、若者相手の映画やファッションのキャンペーンで、(ときによって)成功する、いわゆる伝染性のバイラル・マーケティング(Viral Marketing)は含みません。もう少し地道な(?)クチコミのことです。すでに自分たちの商品・サービスを購買している既存客に友人を紹介してもらうという方法で、ダイレクトマーケティングで昔から使われていたメンバー・ゲット・メンバー(Member-get-Menber)をソーシャルメディアを利用して実現します。
飛行機内でのWi-Fiサ―ビスを提供する企業のキャンペーンを例にとってご紹介します。
1. すでにサービスを利用している既存客に、友人を5人紹介してくれたら、サービス1回分を無料にするというメールを送る。そこには、紹介してくれた友人がサービスを申し込んだら、新規申込み1名につき1回分無料サービスをさらに提供する。そして、キャンペーン中に最も多くの申込者を紹介してくれた既存客は1年間サービスが無料になる・・・という(紹介行動を促す)特典が提供されます。
2. 既存客Aが送られてきたメールの「いますぐ無料サービス申込み」ボタンをクリックすると、パーソナライズされたランディングページにジャンプする。
3. パーソナライズされたランディングページには、既存客Aだけのユニークコード番号とURLアドレスが記載されてあり、そのURLをクリックして、表示されたページの指定箇所にコード番号をコピー&ペーストすれば、「1回分の無料サービス申し込み完了」。
4. そのページには、フェースブックとツイッターのシェアボタンもついており、たとえば、ツイッターのボタンをクリックすれば、ツイッターの友人に送るべきメッセージコピーと短いURLがすでに記載されたページが表示される。「飛行機内でWi-Fiサービスがいまなら1回分無料になるチャンスです! 僕も利用しているけど便利なサービスだから、一度試してみてください」。そのメッセージを5人の友人に送れば、既存客Aがすべき作業はすべて完了。
5. メッセージを受け取った友人は、そこに記載されている短縮URLをクリックすれば、パーソナライズされたランディングページにジャンプ。そのランディングページから申し込めば、どの既存客が紹介した友人からの申込みか判別できる。
6. サービスを販売している企業は、既存客の誰が紹介した友人の誰がサービスを申し込んだのか明らかになるので、紹介してくれた既存客に何回分の無料サービスを提供すればよいかも判明。
7. そして、紹介された友人のうち何人が申し込んだかの合計数によって、既存客のなかで誰がインフルエンサー(影響者)なのか、影響度のレベルも明確になる
メンバー・ゲット・メンバーは質の良い見込み客を獲得する効果的な方法だと考えられている。なぜなら・・・
1. すでに自分たちの商品・サービスを利用している客が、ソーシャルメディア上の多くの知人のなかで、誰が一番申し込みそうか、その可能性を考えて、紹介すべき友人をしぼって選択する。
2. 紹介数を5人に限っているのは、テストの結果。あまり多くの友人を紹介してくれても、それだけ見込み度の低い名前がはいってきてしまう。ダイレクトマーケティング企業の多くはいろいろテストして5人が最適だと考える。が、それは、もちろん、販売商品や価格によっても違うから、各企業が独自にテストしてみるべき。
テマヒマかかるプロセスです。でも、地道。これなら、テストして、その結果を検証したうえで大規模なキャンペーンに拡大することができる。ROI達成目標をきちんと決められるから、予算も立てられます。
地道・・・ということでは、前回の記事に書いた「ソーシャルメディアとSEOの融合」という観点から、アメリカではブログが脚光を浴びています。
会社のCEOが書くブログはもちろんですが、社員が書くブログです。
販売商品・サービスを宣伝するブログではなく、たとえば、衣料品メーカーなら、女性消費者が読みたくなるようなファッション最新情報とかメークアップの悩みとかについてブログを書く。証券会社なら、ヨーロッパの経済危機とか金の値段が決まる仕組みとか、ターゲット客が興味をもちそうな内容について書きます。個人が書きますが、内容については会社の方針に従って管理されているブログです。(こういったコンテンツを外部のコピーライターに書いてもらうことも多いようですが、ソーシャルメディアは人間と人間が交わる場所です。社員が書くのが一番でしょう)。
こういったブログにフェースブックやツイッターのシェアボタンがついていて、ファン数やフォロワー数がふえれば検索ランキングもあがる。かつ、コンテンツ(内容)に関心をもってくれた上で、会社のサイトにアクセスしてくれれば、質の高い見込み客ということで、サイトで購買客に転換する率も高くなる。
前回の記事で紹介したベンチマーク調査によると、「貴社が利用しているソーシャルマーケティング戦術は何ですか?」という質問に答えて、72%のCMOがフェースブックやリンクトインといったSNSの運営、71%がブログにコンテントを投稿、69%がYouTubeやSlideShareにコンテンツをアップロード、61%がツイッターに短縮URL付きのコメント投稿・・・・となっています。
つまり、コンテンツを重視するようになったということです。販売している商品・サービスと関連性のない情報や娯楽を提供するのではなく、関連性の高い、でも、宣伝ではなく、あくまでターゲット客に関心をもってもらえるコンテンツを提供したほうが質の高い見込み客を集めることができる・・・ということです。
ベンチマーク調査で、つづいて、2つの質問をしています。
1. 「ソーシャルメディアマーケティングで効果的なのはどの戦術か?」という質問への答では、最も効果があるとされたのがブロガーやインフルエンサーとの1対1の関係の構築(非常に効果的34%、ある程度効果的51%)、検索エンジンランキングを向上するためのソーシャルメディアサイトの最適化(30%、51%)、ブログにコンテンツを投稿(26%、 49%)、SNSの運営(24%,、53%)、YouTubeやSlideShareへのコンテンツのアップロード(22%、55%)。
2. 「各戦術を実行する難易度レベルを教えてください」への答をみると、最も効果的だとされたブロガーやインフルエンサーとの121関係の構築が一番むつかしくて(非常にむつかしい22%、ある程度むつかしい54%)、ソーシャルメディアサイトの最適化(13%、55%)、SNSの運営(9%、45%)、ブログやソーシャルメディアサイトへの広告(7%、31%)、ブログへのコンテンツの投稿(7% 、32%)、ビデオやスライドののアップロードが(4%、25%)となっている。
上の2つの質問への答を総合すると、ブログ投稿は効果では上から3位、難易度では上から5位。つまり、効果的で実行しやすいソーシャルメディア戦術だということです。
企業はソーシャルメディアの2つの特徴に価値を見出しました。
1. 安いメディア費用で、メッセージを拡散することができる。しかも、到達数が多いわりには、マス媒体よりもターゲットをしぼりやすい
2. 見込み客や既存客と密接な関係を築くことができる場を提供してくれる
1番目については、先回の記事で書いたように、費用は安いかもしれないけど、メッセージを流しているだけではそれがどれだけの効果をもたらしてくれたか明確でない。でも、ROIをはっきりさせようとすれば、テマヒマかかる。
2番目については、炎上がこわいし、ソーシャルには(一人ひとりと交際するには)お金がかかる(人件費もかかるし、それなりのシステム費用もかかる)。
結果、 どちらも中途半端で終わっているのが現状でしょう。
そういった意味では、ブログやマルチメディア(ビデオ、スライド)でターゲット客が価値を見出してくれるコンテンツを提供する。そのコンテンツの評判が「いいね!」ボタンやリツイートでひろまり、より多くのひとがアクセスしてくる。コンテンツに関心がある質の高い見込み客をサイトや店舗といった購買チャネルに誘導する。もちろん、より多くの人が読んだり見たり紹介したりでリンクがより多く貼られることで、検索ランキングがあがり、その結果として、質の高い見込み客をブログやサイトに誘導することにもなります・・・一石二鳥。
やっぱり、ビジネスは、地道・・・というか、基本となるところで勝負しなくちゃいけないということでしょう。
こういった観点とは全く異なるところで、期待がもたれているのが、消費者リサーチです。といっても、ソーシャルメディアをつかったアンケート調査やオンライングループ調査のことではありません。こういった調査は安くて速いという長所があるといわれます。しかし、伝統的な消費者調査手段であるアンケート調査やフォーカスグループ調査と同じように、言葉で質問して言葉で答えてもらう。言葉に頼る調査には、「消費者調査シリーズ」に書いたように、大きな弱点があります。
SNS調査は、安いし速いかもしないが、消費者を真に理解するという能力では、伝統的消費者調査と50歩100歩でしょう。
ブログやツイッターでのコメント、ソーシャルネットワーク上でのコメントや会話を収集してデータマイニングすることは、(質問への答ではなく)自発的な言動データを収集・分析することです。自社商品を購買したひとの使った感想や使い方を知ることもできるかもしれないし、ターゲット客が週に何度外食し、どういったものを食べ、どのくらいの金額を使うかといった情報を得ることもできるかもしれません。
アメリカのようにソーシャルメディアユーザー規模が大きくなると、自社顧客とフェースブック上の実名メンバーとが同一人物かマッチング分析する。同一人物だと判断できれば、フェースブックのもっているプロフィール情報や行動情報とを重ね合わせることもできます。
ソーシャルネットワーク上のデータは、過去にも遡ることができて時系列に分析することが可能。ということは、将来を予測するモデルを構築できる可能性も高いということです。
期待が寄せられている領域です。
しかし、ここで、冷静になって考えてみなくてはいけないことがあります。
私たちは、ソーシャルメディア・マーケティングの動向については、世界をリードするアメリカを意識します。が、アメリカという市場は、ネット人口においてもソーシャルメディア人口においても、先進国ではある意味「異端児」です。基となる人口が大きくしかも成長しているのですから当然のことですが、ソーシャルネットワーク人口で先進国第2位の英国ですら、アメリカの17%です。日本のソーシャルメディア利用率は50%余ということで、まだ伸びることは事実でしょう。でも、絶対数においては、どの先進国もアメリカにははるか及ばないのです。
それが何を意味するかといえば、スケールメリットがないということです。「アクティブサポート」に必要なシステム費用、ネットワーク上をデータマイニングする費用、その他もろもろの費用・・・・アメリカのようには投資効率がよくはならないということです。
ソーシャルメディアは企業が個人と1対1でソーシャライズ(交際する)できる貴重な場です。企業も人間として消費者(人間)と向き合わなくてはいけない場です。ソーシャルメディアでは、企業の人格、企業の人間性が明確に照らし出されます。自社の人格をきちんと出して、消費者一人ひとりと向き合って会話をしてほしいと思います。そうでなければ、このメディアを使っている必然性がない。TVコマーシャルをつかえばよいし、自社ウェブサイトを魅力的なものしてアクセス数やリピーター数をふやせばよいのです。
ソーシャルメディアは人間と人間がソーシャライズ(交際する)場です。誤解もあるしケンカもある。炎上して、それを短期間で収めることができない企業は、その人格、その人間性が悪いからです(もちろん、人間性が良くても内気で交際には向いていないこともあります)。人格や人間性が悪いということは企業風土や企業文化が悪い、あるいは、交際には不適切だと言い換えることもできます。自分の会社の人格があまり良くない、あるいは交際には向いていないと思ったら、ソーシャルメディアマーケティングなど積極的にしないほうがよいのです。
参考文献:1. Social Marketing Benchmark Report 2011, MarketingSherpa
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