5年ほど前から「代理店戦略」の再構築および実行のための人材育成などに関するご相談をいただくケースが増えてきました。ご相談いただく企業は社名を聞けばほぼどなたでも知っている大企業であり、業種も多岐にわたっています。以前から、このテーマに関するご相談はお受けしてきましたが、近年特に増えてきている傾向にあり、またその課題も複雑で難しいものになってきているように感じます。
そこで、本コラムでは戦略上の課題を整理・提示するとともに、戦略立案から実行・実現までの取り組みについて改めて考えてみたいと思います。
なお、本コラムでいう「代理店」とは、製品・サービスをエンドユーザーに販売するためのチャネル(販路)のひとつであり、一般的には販売代理店、特約店、販売店などの名称で呼ばれている企業を指します。
(チャネルについての考察は、次回のコラムで触れる予定です。)
■そもそも代理店を活用することの意義を考えてみる
一般的に、販売チャネルとして代理店を活用することのメリットとしては、拠点や人員などの固定費負担を軽減しつつ高い営業力を確保し、自社営業体制の一部として組み込むことができるという点が挙げられます。低コストで日本全国に営業網を張り巡らすためには必要不可欠な営業・販売機能です。
以前のように日本経済が成長し市場が拡大していく傾向にあったとき(遠い昔のように思えますが)は、代理店の数を増やすことが自社の業績に直結するということが言えました。しかしながら、回復基調・成長軌道に入ったとはいえまだまだその実感に乏しい現在では、過去に築き上げてきた代理店網が思わぬところで足かせになってきているのではないでしょうか。
ひと言で言うと、収益構造が悪化してきているということです。既存の代理店網では経営資源の投資に見合うだけのリターンが得られなくなり、再投資をおこなうだけの経営資源が確保できなくなってきています。これでは、代理店を活用するそもそもの意義を失っているばかりか、マイナスに作用してしまいます。
■代理店の優勝劣敗が進んできている
では何故、既存の代理店網が収益構造を悪化させ、その意義を失っているのでしょうか。理由は様々あるとは思いますが、ここではポイントを2つに絞って提示してみたいと思います。
●理由1:流通チャネルのクロスオーバー化
●理由2:エンドユーザーの要求の変化・多様化・高度化
「理由1:流通チャネルのクロスオーバー化」については、異業種からの参入や製造業もしくはサードパーティ企業のダイレクト・セリングなどにより、エンドユーザーの購買先の選択肢が増えたことが挙げられます。エンドユーザーから見れば、購買先の選択肢が増えることは歓迎されることなのですが、既存の代理店からするとライバルが増えることとなり、更なる競争の激化により経営体力を消耗させてしまうこととなります。
「理由2:エンドユーザーの要求の変化・多様化・高度化」については、単なる“モノ”を購買するといったことから自社の課題を克服するための“策”を購買するといったように、エンドユーザーの意識・要求が変わってきているということが挙げられます。昨今言われているソリューションといった言葉はまさしくこれに当てはまり、代理店には今までのビジネスのあり方を大きく変えていくことが求められています。
このような環境変化に対応できる代理店とそうでない代理店とが明確に色分けされてきており、自社にしてみると今までと同じような取り引きを一律におこなっていたのでは投資対効果(ROI)が望みにくく、収益構造が悪化していくということになります。
■戦略課題の本質は「儲けの構造」を如何に築き上げるか
代理店を活用している企業であれば、チャネルとしての代理店の重要性は認識しており、またメスを入れていかなければならないという共通認識を持っています。ご相談いただく企業も少なからずあてはまります。そして、代理店チャネルに関する個々の事象を取り上げていくと非常に多くのネガティブな面が見られます。
ただし、そういった事象のひとつひとつに惑わされてしまうと、傷口に絆創膏を貼るような対処療法的施策しか取れず、根本的な解決には到底結びつきません。施策に対する活動成果も上がらず、疲弊感だけが蓄積されてしまいます。
代理店を活用することの意義に立ち返ってみると、課題の本質が見えてくるのではないでしょうか。前述のように、「低コストで日本全国に網を張り巡らすためには必要不可欠な営業・販売機能」を代理店活用の意義として捉えるならば、しっかりとした収益を上げる(投資に見合ったリターンを得る)ことができて初めてその価値が出てくるのではないでしょうか。
如何にして儲けの構造を築き上げるか・・・。
次回以降で、チャネル政策上の代理店の位置づけ・役割・機能を明確にしていくとともに、収益構造を改善させていくための手立てについて考えてみたいと思います。