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マーケティング NOW 2015

マーケティング NOW 2015

NOW1 アマゾンと戦うヨーロッパ

2014 年 9 月 24 日

  世界中の小売業が大魔神アマゾンに押しつぶされるのではないかと戦々恐々としているわけだが、ヨーロッパでは、大魔神に対抗して戦いを挑んだりもしている。そんな動きをちょっとまとめてみました。

  なんといっても、「やっぱり文化の国だ」と再確認させられたのがフランス。アマゾンの市場参入は2000年。売上は明らではないが、仏国における本のネット販売売上の70%を占め、すでに、4つの物流センターを開設している。

  フランスでは、ネット販売のせいで毎年数百件の書店が消えている。書店がつぶれるということはフランス固有の文化がなくなることを意味するとして、政府がアマゾンの活動を規制する法律を2014年1月に成立させた。アマゾンが書籍を安売りしたり、配送料無料にしたりすることを禁じたのだ。

  ヨーロッパでの戦いは、金銭的なものもあるが、それと同じくらい文化的な要素もある。本と本を売っている場である書店は、フランスにとっては文化そのものだとみなされる。グローバル化によってフランスの文化が、たとえば、ハリウッド映画や英国の音楽(ロック)によって荒らされるのを嫌い、自国の芸術や文学に対しては例外として補助金や税務上の優遇措置をとってきているお国柄だ。アマゾンが市場に参入する以前に、すでに1981年には、小さな書店を大きな書店チェーンから守るために、5%以上の割引をするのを禁じた法律をつくっている。

  フランスには3000軒の独立書店があり、これは、22000人の市民に書店1軒の割合だそうだ。(ちなみに、アメリカのアマゾン本社のあるワシントン州では7万人に1軒。日本では2014年5月現在で書店数は13943軒あるから、9000人に1軒くらいのようだ.・・・ただし、13,943店には大手チェーンの店舗数も含まれているかもしれない。ちなみに、アマゾンが日本市場に参入したのが2000年。前年の1999年の書店の数は22296店。これが、2014年には13943店に減っているから、15年で8353店消えたことになる。毎年平均550店舗以上閉店したことになる)。

  アンチ・アマゾン法と一般的に呼ばれるこの法律が、フランスの独立書店を守ってくれるとは楽観できない。アマゾンは、その後、配送料を0.01ユーロにすると発表した。0.01ユーロなんて無料ではないが、無料のようなものだ。

  楽観できない理由はもう一つある。フランスの一般市民はフランス文化を守ることには心情的には賛成でも、実際には便利さを選んでしまうだろうとみられている。書店にいって目当ての本がなければ、自宅に戻ってアマゾンで注文してしまう。顧客なんて「不実な愛人みたいなものだ」と書店店主はフランス的なメタファーをつかって、アマゾンは今後も成長していくのではないかと憂えている・・そうだ。

  アマゾンのドイツ市場への参入は1998年。2013年売上は105億ドルで、9つの物流センターを開設し、9000人の従業員をかかえる。ドイツにおけるアマゾンの問題は、「文化」ではなく「労働組合」だ。もっとも、ドイツにおいては、労働組合は伝統ある文化のようなものだ。

  米国や日本だと、労働組合はビジネスをするにはどちらかというと邪魔。存在しないに越したことはないと考えられる傾向が高い。が、ドイツの経済学者の多くは、自国の戦後の復興や、世界的景気低迷のなかドイツ経済が強いのは、経営陣と労働組合との「ソーシャル・パートナーシップ」にあると考えている。従業員代表者が経営上の重要な決定に参加することも多いし、取締役会のメンバーとなっている例も多い。労働組合は、経営者グループと同様に敬意をもって遇されるべきだと考えられている。

  一番最初に、2か所のアマゾン物流センターで400人ばかりの従業員がストライキをしたのは、より高い報酬を要求する目的もあるにはあったが、そもそもの問題は、従業員が労働組合をつくり団体交渉をする権利を会社が認めなかったことにある。アマゾンのドイツの物流センターで働くフルタイム従業員の9000人のうち2000人は、ドイツで2番目に大きい労働組合に属し、2013年から時々ストライクを実行していた。だが、アマゾンは、労働組合と交渉の場につくことを拒否している。

 「労働組合はドイツの文化であり、労働者と経営者の協力体制が産業界での特徴だ」とする従業員側。それに対してアマゾンは、「アマゾンの成功はネット小売業の急激な変化に適応する融通性にある。労働組合と交渉することにより物事が迅速に進まなくなるようなことがなかったから成長できたのだ」と反論している。

  アマゾンは、物流システムに支障をきたさずに、物流センターを組合員の少ない地域とか、あるいは隣国に移すことができる。それがわかっているから労働組合も、そこまで追い込むことはしないようにしている・・・というのが現状のようだ。

  アマゾンの英国での問題はお金だ。英国市場への参入は1998年、8つの物流センターをかかえ7000人の従業員が働いている。アマゾンの英国における売上は2013年に71億ドルだったにもかかわらず、700万ドルの税金しか払っていない。本社が税金の安いルクセンブルグに置かれているからだ。ヨーロッパのどの国からアマゾンに注文しても、ルクセンブルグの会社から購買したことになる。

  英国は、景気低迷がつづくなか、 国家予算をまかなうために、節税をはかろうとする企業へのしめつけを厳しくしている。スターバックスとかグーグルも、税率の低いオランダとかアイルランドに本社を置いていると批判された。スターバックスは、アマゾンに比べて気が弱いというか、税金逃れをしていると非難されるとブランドイメージによくないと思ったのか、あまりに厳しい(しつこい)追求にとうとう負けて、2014年以内に、本社をオランダのアムステルダムから英国のロンドンに移すことにしたと発表している。

  アマゾンはそういった妥協をしないので、英国でブランドイメージを落とすことになるのではないかと危惧する人たちもいる。だが、ブランドイメージが落ちても、売上は伸びるということもありえる。 日本でもアマゾンが日本の税金を払っていないと問題になったことがある。心情的にはアマゾンで買いたくないと思っても、即日・翌日配送は、やっぱり便利なので利用してしまう。なにせ、他に代わりになる小売業が存在しないのだから仕方がない・・・筆者を含め、多くの消費者は(独仏英国の消費者も含め)、なんだかんだといっても結局は購買し続けてしまうのではないだろうか?

  それにしても、アマゾンの強気というか我が道をいく、その徹底さぶりには感心してしまう。

  これは衆知のことだが、アマゾンは売上の割には利益率が極端に低いことで有名だ。2012年には売上が300億ドルから2倍の610億ドルになったにもかかわらず損失を出した。物流センターなどへの投資や配送料無料が原因だ。それにもかかわらず株価は高いので、ベソスCEOは強気をつらぬくことができる。アマゾンは、「消費者の利益のために、投資家グループが支えているチャリティ組織」だと、皮肉を込めた呼び名をつけたジャーナリストもいる。

   だが、2013年度(2013年12月期)の決算(売上745億ドルで純利益が2億7400万ドル)が発表されたとき株価は10%下がった。売上の伸びが第四四半期に下がっていたからだ。特に、海外の売上の伸びが13%と、米国での26%に比較すると低いことが投資家を失望させたらしい。

  それもあって、プライム会員費を、今年の4月に、これまでの79ドルから99ドルに上げた。2500万人いるとされるプライム会員の年間購買金額は通常顧客の2倍だといわれ、2012年の売上の10%を占めているとされる。今後、更新日がくると各会員は値上がりした会費を払ってまで会員でいつづけるかどうかの選択を迫られることになる。半年くらいすればはっきりするだろうが、プライム会員の脱会率がどのくらいになるか注目されている。

 いずれにしても、1994年創業以来、これといった利益もあげることなく、積極的投資をつづけることができたのは、将来性というか将来の夢に賭ける株主のおかげであり、そういった意味で、アマゾンはアメリカ型資本主義が支えているといってもよい。株価が下がらない限り、アマゾンは積極投資を続けることを株主に許可されたとみる。株主にとってみれば、物流システムに積極投資をし配送無料をするということは、市場から競争を排除することを意味するわけで、将来性は高くなる。とくに、売上の伸びが高い限りは、即日・翌日配送で配送料無料というアマゾンのオファーを顧客が支持していることを意味するから、株価は下がらない。

  アマゾンというかベソスCEOは「すべては顧客のために・・・」と強く信じている。だから、フランスで敵対的法案ができてもひるむことなく0.01ユーロの配送料金を課すという大胆な行動に出る。ドイツで労働組合と交渉したくなければ、物流センターの場所を変えても、即日配送と配送料無料を維持しようとする。売上が伸びるということは顧客の賛同を得ているとするぶれない信念があるようだ。

  米国の経営者は戦略をたてるにおいてシンプルと言う言葉をよく使う。アップルのスティーブ・ジョブスは、自分のモットーはSimplicity(シンプルであること)とFocus(一つのことに集中する)だと言っていた。アマゾンのベソスCEOも、顧客満足というたった一つのことに集中して、政府が介入してこようが、その国特有の文化であろうが、決してぶれない。これは非常にむずかしいことで、実際には大半の企業が状況によって妥協している。

 

  大企業だから妥協せずにすんでいる・・・ともいえるが、妥協しないでやってきたから大企業になった・・・ともいえる。まあ、どちらにしても、ぶれのなさには、やっぱり感心する。

  ベソスやジョブズ両氏をまねて単純に考えてみると・・

  先進国の消費者を、お金と時間で単純に分けると、お金を持っている人は(忙しく働いていいるので)基本的に時間がない。反対に時間がある人は(フルタイムの仕事でないか報酬の低い仕事なので)お金がない。そして、お金を持っていて時間がある人は少ない(働かなくても資産を親から受け継いだタイプの富裕層)。お金も時間もない人は、いわゆる、「働けど働けどなおわが暮らし楽にならざり、 ぢつと手を見る」の層で、ある意味、申し訳ないが、ターゲット顧客としては魅力がない。つまり、アマゾンは、お金と時間という20世紀後半から人間の暮らしや人生をつかさどる二次元軸の両方でアピールすることで、消費者の大半を魅了することに成功した。21世紀のこれから、この二次元軸にエコロジーが加わって三次元軸になるかどうか・・・?

参考文献: 1.Matthew Yglesias, The Pfophet of No Profit, Moneybox, 1/30/14 , 2.Jay Greene, Special Reports, The Seattle Times,8/23/14, 8/23/14, 8/25/14,3.Amazon’s Revenue Growth Slows Down, Forbes 2/3/14,

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