Cc: Hugo90&Marcin Wichary / flickr
アップルがアメリカで4月3日、日本でも4月末にはiPadを発売する。今年1月にCEOスティーブ・ジョブズが製品発表して以来、さまざまなメディアで玄人素人(プロアマ)が批評をくりひろげている。
2007年秋に発売され(そして、2009年末までに300万台販売したといわれる)アマゾンのキンドル(Kindle)と比較されることが多いために、日本では電子書籍用の端末だと紹介されるむきもあるようだ。が、ご存知の方はご存知のように(当たり前か・・・)、それは違います。iPadは書籍はむろん映画もダウンロードできるし、ウェブ・サーフィンもメールもできるマルチメディア端末です。が、そのなかでも、とくに・・・。
アメリカでは、iPadは部数が減り息も絶え絶えになっている新聞や雑誌といったメディアを再生させるのではないかと期待されています。
新聞「ニューヨーク・タイムズ」はiPad用のアプリを作成しました。たとえば、iPad画面に、ごくフツーの紙の新聞の体裁で第一面が表示される。トップニュースは「国民皆保険法案成立!」。大見出しと本文テキストが続き、そばに、オバマ大統領がインタビューに答えている写真が掲載されている。iPadでは、その写真をタッチすれば、動画になり、オバマ大統領の記者とのやりとりや法案が成立したときの議場の様子がTVニュースのように再現される。
ニューヨークタイムズ担当者がプレゼンしているのを見て、デジャヴ(既視感)に襲われた。
待てよ。こういった場面をどこかでも、以前に見たことがあるぞ。
きっとSF映画で見たんだ・・・と思ったが、どの映画が思い出せない。でも、スティーブ・ジョブズがiPadを紹介するときに、「真にマジカルで革新的な製品」と語ったのを聞いて思い出した。
マジカル(magical)=魔法。
そうだ。ハリーポッターだ。
ハリポタの魔法新聞だ。
ハリポタ映画では、ハリーが紙の新聞を読んでいると、新聞に掲載されている写真の人物が突然動き出し喋り始めたりする。なんとなくこれに似ている。
たしかに・・・。ネットの登場により、絶滅種とみなされるようになった新聞・雑誌は、iPadの動画と音によって蘇った感はある。スポーツ雑誌「スポーツ・イラストレイテッド」のiPad用のデモをみても、表紙が画面に表示されると、(その表紙にはアメフトでキックオフ寸前の選手の顔が大写しになっているのだが)、観客の歓声やタックルするとき体のぶつかる音が聞こえてきて迫力が増す。(雑誌や新聞の電子版でも音付きの動画はあった。ここでのミソは、フツー紙の新聞や雑誌のようレイアウトのなかでインタラクティブな操作ができることです)。
iPadは「携帯メディア」だ。
そして、むろん、電子書籍もダウンロードできる。だから、iPadが発売されたら、電子書籍端末に特化したキンドルは大きなダメージを受けるのではないかと懸念されている。もちろん、キンドルはアマゾンのジェフ・ベソスCEOが「情報のつかみどりではなく・・・本一冊をじっくり読むために作った」と言うとおり、文章テキストだけを考えてカラーではなく黒白、長時間読んでも目が疲れないように、また、リゾート地の明るい日光の下でも読めるように、パソコンや iPadに使われている液晶画面でなく、電子ペーパーをディスプレイ画面に使っている。新書版の大きさのキンドル2なら価格もiPadの半分だ。だから、電子書籍端末に特化して勝負できる。
でも、キンドル・デラックスはiPadと値段がほとんど変わらないので、機能を比較されると弱いのでは?なんといってもアマゾンは、1995年に書籍のネット販売を始めてから15年間、取り扱い商品を数百万点にふやし、読者のフィードバック機能を充実し、中古品の第三者販売を始めるなど、ビジネスモデルにおいては革新を続けてきた企業だが、アップルと違って、ハードウェアを設計して制作する経験はほとんど無いのだから。
日本では、2008年に電子書籍市場は464億円の規模になっているが、マンガが中心。マンガにはカラーや画面の大きいiPadのほうが適しているという説もあるが、マンガは大半がケータイで読まれているので、しいて新しい機器を買う必要などないのでは・・・? どちらにしても、コンテンツが問題で、アップルもキンドルも日本語ヴァージョンの書籍を出すには、日本の出版社と交渉をまとめなくてはいけない。
しかし、基本的に、iTuneやケータイ電話によって、音楽のCD販売がデジタル配信システムに取って代わられたように、紙の本がデジタル配信に変わっていく流れを止めることはできないだろう。なんといっても、エコ的にもコスト的にも、デジタルのほうが良いわけだし、読者にとっても紙媒体として保存しておきたい本は限られている。
米アマゾンは、キンドルの宣伝も兼ね、モダンホラー作家スティーヴン・キングに直接依頼して短編を書いてもらい、キンドル独占で配信した。出版社を通さないこの流れだと、1)紙代、印刷代、物流コストを省くことができる、よって、2)作家により多くのロイヤルティや前金を払うことができるし、3)読者への料金も低くできる。アマゾンが作家と直接取引きするようになれば、出版社の役割は大きく変わらざるをえなくなる。
ここまできてなんなんですが・・・、出版とか書籍業界の将来を描くのは、このブログを書いた本来の目的ではないのです。
実は、日経新聞で「技術経営論からみた電気自動車」という香川大学の柴田教授の記事を読んで以来、私の頭にちらついているのは、かじりかけのリンゴのマークがついたシルバーメタル色の自動車なのです。iCar(あるいはiAutoとかiViecle?)なのです。
ハイブリッドではなく100%電気自動車になり、エンジンからモーターになると、(エンジン周りの部品数は自動車全体の30~40%を占めるので)全体で3万点もある部品が、その十分の一になるそうです。しかも、電池やモーターといった主要部品が電気系部品となり、それらをケーブルで連結すればよいので、主要部品間の相互依存関係が単純になる。よって、モジュール化が進む。つまり、設計思想がパソコンのようになり、デルやアップルがしているように、主要部品はOEMで調達し組み合わせるだけでよい。アップルはそのアセンブリーさえも中国の工場でしている。
極端な言い方をすれば、デザイン・設計さえきちんとすれば、誰でも自動車がつくれるようになるのだ。げんに、2009年に日米よりいち早く(家庭用電源で充電できる)プラグイン電気自動車を発売した中国のBYD(リチウムイオン電池の製造では世界大手)のCEOは、「電気自動車だから新規参入企業でもトヨタやGMと競争できる」と語っている。伝統的なガソリン自動車を製造していなかったから、へんな先入観にとらわれていないぶん、また、伝統的製造工場を所有していないぶん、かえって、競争優位に立てるというわけだ。
電気自動車では、クルマのデザイン上の制限が少なくなるという。従来のガソリン自動車では、大きく重いエンジンを設置する場所が自動的に決まってしまう。ガソリンをいれるタンクの設置場所もだいたい決まってしまう。電気自動車でエンジンにあたる重い部分は電池しかない。電池はたしかにかさばるし重いが、設置場所の制限はそれほどないし、縦に束ねたり一面に敷き詰めることもできる。
パソコンのような設計思想。そして、デザイン上の制限が少なくなった・・・・といったら、やっぱり、アップルの出番ではないでしょうか? (スティーブ・ジョブズは少なくとも2008年にはメルセデス・ベンツに乗っていたらしい。このデータは、彼の電気自動車への関心度を予測する重要変数になりえるのでしょうか? クルマオンチの私には判断がつきかねます)。
この提案はそれほどワイルドなものでもありません。アメリカのまあ有名な投資家が2009年にオバマ大統領宛の公開書簡で、「アメリカの自動車産業を救うのは、スティーブ・ジョブズだ・・」と書いているくらいですから。彼は、「自動車産業の将来はエレクトロニクスとソフトウェアだ・・・アメリカには、その分野で才能ある人材がたくさんいるはずだ」と説明しています。
ところで、電気自動車のネックは電池にあります。ノートパソコンやケータイ電話に使うリチウムイオン電池に一番期待がかけられていますが、値段が高い。しかし、生産量がふえることによって、価格も2015年にはいまの半分、2020年にはいまの四分の一くらいになることが予測されている(いまは、電池の価格は1キロワット時当たり10万円前後)。電池のもうひとつの問題は、一回の充電で走れる距離が100キロから160キロくらいと短いこと。そして、フル充電に10時間前後、急速充電でも30分かかるという問題。そのうえ、ケータイやパソコンでオーバーヒートして発火する問題を起こしたりした安全性の問題もあります。
それに関連して(ここでまたiPadに話が戻ります)、アップルはiPadの電池交換に新しい方針を採用することを発表しています。これまでのように、ユーザーが新しいバッテリーを購入して古いのと自分で交換するのではなく、アップルに使っているiPadそのものを送る。そうすれば、一週間以内に、アップルが新しい(というかきれいにした中古品)iPadを新しい電池入りで送り返してくれるそうです。もちろん、交換に出す前に、データは保存しておかなくてはいけません。リチウム電池の安全性を考えて、消費者に交換してもらうよりは、製品の点検もかねて電池は企業側で交換したほうがよいと判断したのだろう・・といわれています。
そこで、また、思ったのです。iCarの場合も(また、一口齧りのリンゴ・マークがついたクルマの話に戻ります)、充電に長時間かかるから短距離しか電気自動車は使えないというのではなく、長距離の場合は、途中でガソリンスタンドならぬApple Stationに立ち寄って、丸ごと新しいiCarに変えてもらう・・・ってえのはどうでしょうか? 「え~、じゃあ、車の中にある私物も一々入れ替えるの? めんどくさい~」という苦情を考えて、車の内部だけまるごとスライド方式で取り出して、新しい車に数分のうちにカチッと組み込むっていうのは? あるいは、充電済み電池とモーターをカートリッジ方式で入れ込むっていうのは? なんといっても、アップルは独創的なデザイン力に定評があるんだもの。きっと、魔法のようなクルマを設計してくれるのではないでしょうか?
参考文献: 1.EVが未来を変える、産経ニュース10/25/09、2, The Future’s electric for auto industry but barriers may shortcircuit the sparks, says PwC, Pricewaterhouse Coopers 12/10/0 sparks, says PwC, Pricewaterhouse Coopers 12/10/09, 3. Norihiko Shirouzu, Technology Levels Playing Field in Race to Market Electric Car, The Wall Street Journal 1/12/09, 4.「活字のKindle」vs「マンガのiPad」 電子書籍端末の勝者は? 日経トレンディネット2/02/10、5.Alison Flood, Stephen King writes ebook horror story for new Kindle, Guardian.co.uk 2/10/09、6.技術経営論からみた電気自動車ーー香川大学教授 柴田友厚氏、日本経済新聞11/18/09, 6. Adam Penenberg, Amazon Taps Its Innter Apple 7/01/09、7.電子書籍、日本でも普及?日経新聞3/16/10
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