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マーケティング NOW

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NOW12 東京ガールズコレクション

2009 年 9 月 28 日

TGC(東京ガールズコレクション)が9月5日に開催されて、10~20代の女性約2万人が参加。開幕24時間以内のケータイやPCを通じてのネット販売と会場内での販売を合計した売上が約5900万円だった・・・・・こんなふうに、NHKのニュースでも取り上げられるようになったのでは、「ちょっとメジャーになりすぎ!」って思った女の子たちも多かったのではなかろうか? 

 2008年春の第6回からは外務省が後援してるし。ここらへんがピークかもしれない。おりしも、ケータイ恋愛小説「赤い糸」を330万部も売りまくったゴマブックスが、9月7日に民事再生法を東京地裁に申請。そういえば、ケータイ小説の話って最近あまり聞かない。10代20代って、昔から気移りしやすい世代なんだから・・・。

 どちらにしても、あれだけの数の人気モデルに芸能人、人気歌手を登場させる一大イベントというか大規模ショーなんだから、5900万円くらい売れて当然。・・・というか金銭上の損得だけを考えたら、まったく割りが合わないくらいでしょう。

 TGCのことについてとやかく書くつもりはないのです。TGCのニュースをみて頭に浮かんだことを2点書いてみたいと思います。まず、最初に「日本中からブスをなくしたカワイイ・マジック」について。それから「高級って退屈なことなのか?」について・・・。

 ちょっと前までは、ブスと呼ばれる女性たちがいた。彼女たちは最初っから化粧することもトレンディーな服を着ることもあきらめていた。ファッションは自分たちにとって無縁なものだと思い込んでいた。ところが・・・・だ。「カワイイ」という摩訶不思議な言葉に背中を押され、バッサバサのつけまつげに目を3倍は大きく見せるデカ目メークとてんこ盛りヘア・・・・宝塚の舞台化粧顔負けの厚塗り化粧で素顔が消える。一昔前なら、お水のお姉さん。それも、仕事場は銀座や六本木の高級クラブでないことだけは間違いなし。それでも、下品とはいわれず、「カワイイ」といわれる。

 デブだって「カワイイ」のだ。ピシッときまったシャネルのスーツとかは着ない(正確には『着られない』)。ユニクロやH&Mとかフォーエバー21で、安くてファッショナブルなパーツを買い集めて重ね着する。デブがフリルのワンピを着たら、「もっとデブに見える~」。そう言われたのは昔のこと。いまなら、「わー、パンダみたくにカワイイ!!」。

 東京の街から「ただのブス」や「ただのデブ」が消えた。

 読者をモデルにした読モファッション誌や、ストスナ(ストリートスナップ)写真を満載したファッション誌が人気を呼び、誰もが自分の個性的(?)な容姿に自信が持てるようになった。NHKのTV番組「TOKYOカワイイ」に登場するカリスマ読モとかストスナでは著名人なんていう男女の多くは、「ええ、どこが~?」と驚くくらいにどぉってことない目鼻立ち。きつい照明ライトの下で撮った写真は化粧栄えしてステキかもしんないが、実際には、はっきりいって、全然美人でも美男子でもない(もちろん、読モ出身者には、本当の意味での美男美女も、数少ないが存在する。で、この生まれながらの美に恵まれた一握りの幸運児たちは、読モ出身からキャリアアップしてドラマやバラエティ番組などでも活躍する)。 

 要は、ブスでもデブでも、いまは、化粧とファッションで「カワユク」なれるのだ。

 ちなみに、語源とか言葉の由来とかを調べてみると、「かわいい」は「かわいそう」の親戚で、もともとは、「気の毒だ」とか「いたわしい」という意味だったらしい。ということは、ブスにつける形容詞としてはピッタシだったんだ(って、差別主義者って非難されない前に断っておきますが、私は、もともと、女性にブスは存在しないと固く信じています。美への執念とか努力の足りないひとがブスになっているだけだと思っていますから)。

 NHKの「TOKYOカワイイ」TVで「日本のファッション大好きでーす」とかいう外人が登場して、カリスマ・メークアップアーティストなどにデカ目をつくってもらったり、スタイリストに洋服を選んでもらったりするのだが、これが全然かわゆくならない。「カワイイ」というのは、鼻も低くて凹凸がはっきりしていないモンゴル系が化粧をするときに実現できる「アニメ」顔かもしれない。

 同じように、西欧のデブはただの醜いデブからなかなか這い上がれない。柳原可奈子とか天道よしみのような、ちょっと触って見たいとか、テディベアみたいにハグしたい思わせるようなカワユイ系デブにはなれないのだ。

 これも語源辞典によると、「気の毒だ」の意味をもつ「かわいい」が、いまの「愛らしい」という意味に変わっていった過程を調べると、小さいものや弱い物に対して「気の毒で見ていられない」という感情を抱き、それが、いつのまにか、小さいものや弱いものをいとおしむ気持ちから、いまの「かわいい」に行き着いたらしい (あくまでひとつの説です)。

 ここまでのところを独断的に要約すると、小柄の草食系人種じゃないと、「カワイイ」は実現できないのかも。

 いずれにしても、若い日本人は、生来の容姿にかかわりなく、誰でもかわゆくなれることが証明された。結果として、10代20代の女性の、たとえば40%が、自分がファッショナブルになることなどハナからあきらめていたとして、その40%までもが、ファッションに興味を持ちお金を使うようになった。その結果を象徴するのが渋谷の109でありTGCだ。

 だからといって、自分たちも、このセグメントを狙おうなんて、まさか、デパートのひとたちは考えていませんよね?

 本題の「高級=退屈なのか?」の話に入ります。

 百貨店の売上が落ち込んでいる。

 といっても、経済危機以前から、その傾向はあった。デパートの売上高は11年連続して前年割れしている。その理由については、「消化仕入れ」と呼ばれる返品できる仕入れ手法が8割を占め、リスクをとらない甘えの精神が革新の邪魔になってきた・・・・とか、その他いろいろ挙げられている。が、その話はまた別の機会に。ここでは、TGCの話題に関連して、「なぜ、デパートの高級品売り場は退屈なのか?」という疑問を提示したいと思います。

 たとえば、デパートの顔ともいうべき、一階の化粧品売り場を例にあげてみます。

 化粧品は不況に強いといわれている。

 日本でも、「原料が手にはいらなくなった第2次大戦中を除き、化粧品の出荷量はほぼ一貫して伸びてきた。金融恐慌中の1927年でさえも、化粧品の出荷額は前年比2割増しだった」そうだ。アメリカでも同じことがいえて、世界恐慌真っ只中の1933年においてさえも、化粧品の(インフレ調整済み)売上は、恐慌が始まった1929年以前よりも高かった・・・というデータがある。

 日本では、今回の経済危機が発生した2008年度のスキンケア用品の出荷量は前年度比ほぼ横ばい、口紅などのメーキャップ用品は1.8%のプラスとなっている。ポーラ文化研究所が首都圏の15~64歳の女性を対象にした調査(2009年4月実施)では、景気の影響で生活費を減らすと答えた人は45%、外食の出費を減らすは50%。だが、化粧品の出費を減らすと答えた人は 30%に満たなかった。70%強が、これまでと同等か、それ以上出費すると答えている。

 女性は不況時だからこそ、化粧品にお金を使う。これは、アメリカでも同じで、口紅インデックスなんて言葉さえある。高級化粧品会社エスティローダの前CEOが2001年の不況時に言い出したもので、景気が悪くなるほど口紅が売れるというものだ。女性は、社会状況が暗くなり、気分が落ち込むと、ちょっとした出費で気分転換できる口紅を買う。もっとも、2008年発生の経済危機では、口紅ではなくファンデーションの売上が上がっているらしい(これは、日本でも同様の傾向がある)。口紅インデックスではなくファンデ・インデックスだ。

 問題は、デパートの化粧品売り場だ。化粧品の売上は全体的には落ちてはいないのに、全国の百貨店化粧品売上高は2008年12月に前年同月比でマイナス。それ以降、前年同月比割れが続いている。消費者は、化粧品を百貨店ではなく、ドラッグストアで買っているのだ

 ドラッグストアで化粧品が売れるという話題になると、すぐに、「安いからだ」と金銭的な理由づけがされる。デパートで売っている化粧品は高級すぎるとか高すぎる、だから売れないのだ・・・という話になる。

 それは違うと思う。

 ドラッグストアに行って見れば違いがわかる。ドラッグストアの化粧品売り場には、ディズニーランドのようなマジックが感じられる。ドラッグストアを探せば、自分をプリンセスに変身してくれるマジカルな化粧品が見つかるような気がする。手作りのPOPに書かれたコピーはおまじないのよう。お姫様になるのにふさわしいカワユイパッケージ。魔女に合ったおどろおどろしいパッケージもある。ドラッグストアは魔法の国なのだ。

 それに比べると、デパートの化粧品売り場のつまらないこと! どの売り場も同じように品良く、静かで、活気がない。店員も夢を売っているひとたちには全然見えなくて、(歯を見せて笑うことは下品だと思っているようで)笑顔が見られない。(他人の笑顔を見ると、つい自分も笑ってしまう。それによって、自分も明るい気持ちになる・・・ということを証明する数多くの心理学の実験結果があるのを知らないのでしょうか?)。

 メーキャップ用品でも買って気分転換しよう。元気になろう!・・・と考えても、デパートではそんな高揚した気分にはなれない。20代後半、30代、40代、いや、それ以上の年齢の女性だって、変身願望があるのです。夢をいつも見ていたいのです。ブスでもカワイクなりたいのです。でも、デパートの化粧品売り場はその(ひっそりと内に隠した)欲求には全然答えてくれていない。

 デパートでは店員がカウンター外に出てセールスをしないように規制している・・・ことはわかっている。しかし、高級でも退屈である必要はない、高級でもエキサイティングになれるはずだということを、じっくり考えて見る必要がある。TGCはイベントをすることで人を集め、興奮させ、そして、まわりがみんなケータイを出して注文するから自分もそうする(コンサートでも、まわりが立ち上がってタオルを振るから自分もする。まわりの熱気に影響されて自分もエネルギッシュに変身する。集団意識の利用によってモノが売れる)。

 おりしも、ぴあ総合研究所の9日の発表によると、消費不況のなかでも、エンターテイメントのチケット売上は前年比1.2%でした。「経済環境が厳しくても、人気公演のチケットがすぐ売り切れ状況は変わっていない」そうです。コンサートや劇場、映画、スポーツ・・・みんな数時間の間でも、夢をみさせてくれるのです。

 ドラッグストアには夢がある。でも、デパートの化粧品売り場には商品はあっても、夢もエネルギーも感じられない(今の自民党みたいなものです。そして、総選挙では、選挙民は、民主党が提供する夢を買ったのです)。

 ついでに、化粧品メーカーの広告についても書いてみます。

 以前にも書いたことですが、正月用とかクリスマス用、新学期用の広告があるというのに、なぜ、不況時の広告はないのでしょうか? 化粧品のTVコマーシャルをみても、機能中心のものが多い。社会が閉塞して不安感が漂っているときには、消費者は気分転換とか気分高揚ができるものを探している。上品で退屈なコマーシャルではなく、「ああ、あれを使えば楽しい気分になれそうだ」と思えるような、夢を与え、エネルギーを与えてくれるようなコマーシャルを求めているのです。

 不確実な時代こそ、企業は消費者に夢を提供してあげなくてはいけない・・・と思うのです。民主党が選挙に大勝したように、一般市民は、(実現できるという保証がなくても、それでも)夢を見せてくれるもの(政治組織、企業、商品)が好きなのですから。

 デパートの化粧品売り場は、まず、美容部員を変えることから始めましょう。そこそこの若さで、そこそこの容姿の同じような個性のない店員を並べるのを止めましょう。デブでブスのおばさんは、いまの美容部員のお化粧法をまねしたって、全然変身できません。美輪明宏みたいな、まっ黄色の髪でド派手なメークをした小太りのおばさんが立っていたら、「かわゆい~」といって、あらゆる年代の女性が集まってきます。そして、魔女のような店員に魅せられて、彼女が進める化粧品を、なんとなく買ってしまうこと間違いありません(半分、マジです)。

参考文献:1.「なぜ化粧品だけ不況知らず(エコノ探偵団)」日経新聞07/12/2009 2、「エンタメ市場健闘」 日経新聞 09/10/2009

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