個人消費が瞬間フリージングしてしまったなか、ユニクロだけが一人勝ちしている。2008年夏にはブラカップ内蔵型キャミソール「ブラトップ」がヒットし、冬になって発熱保温肌着「ヒートテック」が2800万枚完売したという。ユニクロ・ブランドを抱えるファーストリテイリングの株価は上昇して、売上高は5864億円と小売業トップのセブン&アイ・ホールディングスの10分の一だが、時価総額はセブンの2兆2389億円の二分の一の1兆1646億円となっている(読売新聞調べ。1/26/09)。
不況に悩む企業にとってはうらやましい限りの実績によって、ファーストリテイリング柳井会長&社長は、2008年の「社長が選ぶ今年の社長」に選ばれた(産業能率大学による調査で、回答に応じた経営者365人のうちの20%が、最も優れた経営トップとして選んだそうだ)。文句なしのバンバンザイ状態ではあるが、完璧だといわれるものに欠点を見つけたくなるのが、野次馬根性である。
ユニクロについて書かれた新聞・雑誌記事を読んでみてください。
「低価格」で「高品質」。消費者の声を聞きながら毎年、改良とカイゼンを積み重ね、より高い機能を備えた完成品を4・5年かけてつくる・・・・・これって、ファッションブランドというよりは家電製品について書かれた文章みたいじゃありませんか?
1. 「ヒートテック」は2003年に最初に発売されたときは発熱・保温だけの機能。それに、抗菌機能や保湿効果を加え、さらに、薄い生地で軽量化を実現した。
2. 「ブラトップ」は、「Tシャツ風の服を着るときにブラジャーはつけたくない」という顧客の要望にこたえようと毎年改良を重ねてきた。2008年になってやっと自信をもって提供できる製品ができたので、TVコマーシャルを流して大量販売を開始。
3. 「マシンウォッシャブルニット」は「洗濯機で洗っても縮まないセーターがほしい」という要望に答えて開発。2年間かかって2008年12月に商品化にこぎつけた。
三洋電機が2001年に「洗剤のいらない洗濯機」を発売するまでには4年の年月がかかっている。1997年に洗剤のいらない環境にやさしい洗濯機をつくろうというアイデアが生まれ、99年に超音波で洗うために洗剤が少なくてすむ洗濯機を開発、ついで洗濯槽を斜めにすることで汚れ落ちが数倍高くなることを発見して「超音波斜めドラム洗濯機」を開発。そして2001年、ついに、完成品の販売にこぎつけた・・・・こういった家電メーカーの製品革新手法に、ユニクロ製品の開発物語はよく似ている。
だいたいにおいて、ユニクロでヒットしているのは、最初のフリースからブラトップ、ヒートテックまで機能中心の衣料品ばかり。柳井社長もインタビューのなかで、「一流メーカーの製品は使い勝手も機能も毎年確実に向上している。技術革新と消費者ニーズの徹底的追及だ。それに対抗できる製品を出せなければ顧客は家電や自動車にいってしまう・・・・」などと語っている。名前を伏せたら、工業製品メーカー経営者の発言だと誰もが思うことだろう。ファッション業界に身をおく経営者とのインタビューだとは推測できない(まったくもって余計なことだけど、柳井社長自身、ファッション業界に身をおいているひとには見えない)。
カジュアル衣料品分野では米ギャップを抜いて1位になりそうなスペインのザラ(親会社名はインディテックス)も、製造過程をふくめたサプライチェーンシステムにおいては、トヨタ自動車のアドバイスを得てジャストインシステムを採用したという。だが、トレンディなファッションを二週間以内に店頭に並べることを特徴とするザラとは違い、ユニクロという会社には工業製品をつくっているようなメンタリティが感じられる。2000年にフリースが2600万枚売れたあと、過剰在庫の問題もあって業績も下がり、将来の方向性を模索するときがあった。そのときには、製品のデザイン性を高める努力をするということだったが・・・・結局、機能重視の方向に舵取りを変更したようだ。
衣料品で機能を強調するのが悪いというわけではない。「ブラカップ内蔵型キャミソール」なんて解説は、近未来ゲームでの戦闘服を思い出してしまうけれど、少なくとも、カジュアル衣料品ということで同類視されているギャップ、ザラ、 H&Mでは、高機能戦闘服は開発できないだろう。
日本人は職人気質でコツコツ丹精こめて完璧なモノをつくるのに長けている・・・といわれる。その気質のせいもあってか、日本の工業製品は技術志向になる傾向が高い。ブランドのイメージや個性を築くことを考えるよりも、なるべく低い価格内で高機能を付加しよう・・・と考えてしまう傾向がある。そういった傾向が、ファッションブランドでも発揮されているのがユニクロというブランドだ。
衣料品に機能が付加されること自体はOKだ。だが、工業製品製造業的メンタリティは諸刃の剣で、ユニクロの弱点でありアキレス腱になりうる。
「機能」というものは、それがどういったものであるかが具体的に説明できるし理解もしやすい。だから、マネしやすい。柳井社長は小手先だけではマネできるものではないと言っているが、日本の家電やエレクトロニクス製品メーカーだってかつてはそう思っていた。
機能は新興企業や競合企業も目標として掲げやすい。あそこの製品より高機能なものをあそこより安く売るという目標は、具体的なぶん、達成しやすい。ソニーやシャープ、NECが開発製造した高品質・低価格製品を超えるモノをつくれるメーカーが国内外から登場したように、ユニクロ人気が続けば、必ず、競合相手が出てくる。そして、消費者が知覚できる品質の違いには限りがあるから、結局は、低価格競争になる。これは、工業製品の宿命だ。
家電製品でいえば、英国ダイソンやデンマークのバング&オルフセンはデザイン性を強調することで、他社との差別化をはかり価格の高い製品を販売することに成功した。ファーストリテイリングも、2010年までに連結売上高で一兆円達成の目標を達成するためには、機能中心の低価格で工業製品的衣料品ブランドを販売しているだけでは無理だろう。高級ファッション・ブランドを持たなくてはいけない。もちろん、そんなことはわかっているから、ファストリは世界市場に通用するブランドを買収しようとしているわけだ。2007年にはバーニーズ・ニューヨークを買収しようとして中東系ファンドに競い負けした。が、今回の経済危機はユニクロにとって大きなチャンスだ。潤沢な現金をもとに、割安な値段でヨーロッパの高級ファッションブランドを買収することができる可能性は非常に高い。
そして、そのブランドをファーストリテイリングの工業製品製造業的メンタリティ(企業文化といってもよいかもしれない)で染め変えようとしない限り、一兆円どころかもっともっと成長することができるだろう。不況に強い機能重視の高品質で低価格のユニクロと、好況時に利益をもたらしてくれる高級高価格ファッションブランドの2つを持てば鬼に金棒。好況・不況の景気サイクルが短期化する不確実な時代で持続性ある成長をとげていくことができる。
ところで、ユニクロって、アジアはべつにして、北米やヨーロッパでも人気が出るブランドなのだろうか? クールジャパンのイメージでいけば、ユニクロよりは「MUJI無印良品」だ。禅やミニマリストの哲学を表現した製品だと受け取られている。つまりブランドのイメージや個性が認識されているということだ(もっとも、欧米では衣料品よりは日曜雑貨のほうが人気があるらしい)。ユニクロのような機能的衣料品は通信販売のほうが売りやすいかもしれない。
だいたいにおいて、ヒートテックのような防寒肌着って西欧人に売れるのか? どちらかというと暑がり体質で日本人のように冷え性のひとって余りいないのでは?・・・と思っていたら、あにはからんや。いま、アメリカでヒットしているのが「袖のついた毛布のスナギー」。修道院の僧衣のような形の毛布で、10月にテレビ通販で発売され、3ヶ月で400万枚売れ、中国での製造がまにあわなくて、現在では注文してから4~6週間待たされるらしい。「スナギー Snuggie (Snuggleというのは,暖かさとか愛情を求めて寄り添うとか気持ちよく横たわるといった意味)」は読書用電灯がおまけについてわずか$19.95。家でそれを着ながらソファーに寝っころがってテレビをみたり読書したり・・・不況で巣ごもり状態になっている消費者にはぴったりだというわけだ。しかも、暖房の温度を下げて暖房費を節約できる。
スナギーってどんなものか知りたいかたは、下のページにアクセスするとTVショッピングのビデオが見られます。
http://www.getsnuggie.com/flare/next
念のために強調しますが、以上のコメントはユニクロを批判しているわけではありません。ユニクロがファッション・ブランドとしては非常に稀有なブランドだということ、そして、ユニクロをつくった企業メンタリティがあるとしたら、それが、果たして高級ファッション・ブランドとあいまじわることができるかどうか?・・という疑問を投げかけてみただけです。そして、最後に付け加えます。私もヒートテック愛用してまーす! 冬の初めに買ってみてよかったので、もっと買おうと再度お店を訪れたら、もう、私のサイズはありませんでした。来年は早めに買いにいきまーす!
参考文献:1.「ユニクロ方式寒さ知らず」 読売新聞1/26/09. 2.「ユニクロ快走どこまで」、日経新聞 10/3/08、3、 「衣料、ユニクロ一人勝ち」 日経新聞 8/25/08, 4.Jack Neff, Marketing’s New Red-Hot Seller: Hunbule Snuggie, AdvertisingAge 1/26/09 5. Kerry Capell, Zara Thrives by Breaking All the Rules, Business Week, 10/9/08
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