ブランドという言葉はあまりにも安っぽく使われ過ぎて、ほとんど商品と同意語になってしまった。もともと、所有権を明確にして盗まれたときなどに困らないように「可愛そうな牛さん」に押した焼印を指す言葉だ。だから、名前、デザイン、パッケージなどで他商品と区別できれば、「ただの商品じゃなくてブランドだ」と主張しても許される。
でも・・・。
「ブランドをつくる10のルール」とか「誰でもできるブランド構築」なんてタイトルの本を読んでみると、一般的商品開発や商品販売のハウツーものと変わりないことがよくある。 ~これらの本のタイトルは全て架空のものです。アマゾンでチェックして、同じタイトルがないことを確認して使っていますが、もし、偶然に同じタイトルの本があったらゴメンナサイ~
いやしくもブランドというからには、少なくと数十年は市場に存在し、なおかつその名前を聞くだけで、消費者の心のなかに、シンボルマークやカラー、その他のブランドに関する情報が浮かび、大好きとかあるいはその反対に大嫌いとか、憧憬や興奮といった感情が心の中に生まれるものでなくてはいけない。
そのなかでも、パワーブランドと呼ばれる強いブランドには、そのブランドに関する個人的思い入れ・・・つまりそのブランドに関わる個人的体験とそれに伴う感情をすぐに喚起する力がなくてはいけない。
強いブランドは記憶と感情の組み合わせで生まれる。
それを証明するために、脳科学の最新テクノロジーを使った3つの実験を紹介しよう。
1.コカコーラとペプシ
コカコーラとペプシの味比べの実験は昔から有名だ。ブランド名を教えずに、ガラスのコップに入った液体を飲ませるると、多くの被験者がペプシのほうが味が良いと答える。だが、ブランド名がわかると(さっきはペプシのほうがおいしいと言ったくせに)やっぱりコカコーラのほうがおいしかったとコークファンは恥じらいもなく断固主張する・・・・ってやつだ。
同じような実験において、被験者の脳のなかをfMRIで調べてみる。すると、ブランド名を教えないときには、コークを飲んでいようとペプシを飲んでいようと、コーラが好きな被験者の場合には脳内の報酬系が活性化する(消費者調査シリーズ第一回参照)。つまり、自分の味覚に合ったおいしい飲み物を飲んでいるので、報酬系が活性化して快の感情を感じているのだ。
このとき、ブランド名を教えると、コークを飲むコカコーラ・ファンの場合は、報酬系だけでなく、記憶と感情に関係する部位の神経細胞(ニューロン)も活性化する。きっと、コカコーラに関しての過去の(なんらかの感情を伴う)体験を思い出しているのだろう。たとえば、子供のころ家族でディズニーランドに行って花火を眺めながら飲んだコーク。あるいは、高校生のとき、彼女とのはじめてのデートで映画を見ながら飲んだコーク・・・。
2.日本の高級小売店
日本の高級小売店の顧客を態度調査で、店舗にどれだけ強く感情的に結びついているかのレベルで3つのグループに分けた。そのなかで、「感情的に強く結びついてる顧客」つまり、ロイヤルティの高い顧客グループに質問し、それに答えるときの脳内の活動をfMRIでチェックしてみた。感情的に強く結びついている客の場合、小売店のことを考えているときには、「感情」と「記憶」に関する部位の神経細胞が強く活動していた。ちなみに、自己申告による財布シェアの割合と感情的に結びついている度合いとの相関関係は0.6という高い数値を示していた。
3.英国のスーパーマーケット
スーパーで買い物をする客に協力してもらってfMRIで脳のなかをチェックしてみた。小麦粉とか砂糖とかブランド名にこだわらない商品を購買する場合は、記憶に関係する部位だけが活性化する。たぶん、過去にお菓子をつくったときに使いやすかったかどうかといった経験を思い起こしているのだろう。だが、洗剤とかコーヒーとかいったブランドの違いが関係してくる商品を買うときになると、記憶と感情と二つの関係部位が活性化するのを見ることができた。
広告も記憶と感情を生むことはできる。だが、コマーシャルが「面白い」とか「コマーシャルの女優さんみたいにきれいになりたい」といった憧れの感情は、(たとえば、自分のボーイフレンドを盗み取った)元友人よりもきれいになりたいという個人的体験に基づいた感情ほどには強くない。だから、すぐに忘れる。忘れられないためには何度も繰り返す。もちろん、それだけ宣伝広告費は高くなるから限度ってものがある。それで、一定期間が過ぎて宣伝を止めれば、ブランド名は記憶から消えていってしまう。
長期にわたって記憶してもらうためには・・・・
1. そのブランドに関しての個人的体験、しかも、あるレベル以上の強い感情を伴う個人的体験が必要。 あるいは・・・
2. 広告宣伝を何度も繰り返すことが必要
そして、いったん長期記憶に固定化されたとしても、無意識の領域にある記憶を意識の領域に呼び起こすためのキュー(消費者調査シリーズ第二回参照)が必要。そのキューのひとつとなりうる広告宣伝活動を継続しなければ、ブランドの記憶は無意識の世界に取り残されているだけで終わってしまう。
(ブランドと感情と記憶シリーズ第三回に続く・・・)
独断度100%のコメント
繰り返せば感情が伴わなくても長期記憶を作り出すことができるという事実は、誰にでも経験があるはずだ。受験勉強のときに、「イイクニ~1192年~鎌倉幕府成立」とか、「奈良をナクシて平安遷都~794年~平安時代の始まり」とゴロ合わせで覚えた。あまりに何度も繰り返したから、数十年たったいまでも思い出すことができる。(もっとも、最近の新聞記事を読んでいたら 鎌倉幕府が1192年に始まったという説には疑問が多く、1185年を使っている教科書もあるようです)。
だから、宣伝は繰り返せばそれだけの効果がある。資生堂がTSUBAKI(ツバキ)を販売するにあたって、ヘアケア製品としては過去最大の50億円という宣伝費を投入。結果、初年度の出荷額は目標を上回り市場シェアも上がっているという。だが、広告によってつくられた記憶は、新発売キャンペーン的宣伝を止めたら消えていってしまう。
ツバキの初期段階における成功は広告費をたくさん使ったからだと、皮肉っているわけではない。たくさん使っても、いまのところ契約数の減少をくい止めることができないドコモ2.0の例もある。だが、ブランド構築において、広告宣伝費をたくさん使うことは成功するための非常に大きな第一条件であり、そして、また、一度成功しても、広告宣伝活動を継続しなければ、結局は忘れられてしまうということは、否定できない厳然たる事実なのです。ブランドという地位を築きやすい商品カテゴリーであるグッチとかシャネルでさえも、高級ファッション誌すべてに毎号広告を掲載しているではないですか。いわんや日用品や食料品においてをや・・・です
ブランドについての本で、一定のレベル以上の広告宣伝費を使わなければ他の条件がそろっていてもブランドを確立するのはむずかしいですよ・・・・と書いてないとしたら、それは余りにきれいごとすぎると思うのです。
参考文献:1.John H. Fleming, et al. Manage Your Human Sigma, Harvard Business Review July-August 2005 2.Malenie Wells, In Search of the Buy Button, Forbes 9/1/03
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