先進国市場において、旧来の消費者調査方法への不満が表に出るようになったのは、2000年ころからだろうか?
欧米では、それ以前からも、満足度調査の結果と売上向上とが結びつかないことへの不満がくすぶっていた。CRMシステムに投資し、顧客へのサービスを強化して、満足度調査をする。顧客の満足度が向上しているから企業も満足する。ところが、売上はいっこうに上がらない。「いったい何のためのCRM活動だ!」と経営者は怒る。
この場合、企業は二段階のリスクを犯している。
1. 言語を用いて質問し、それに対する言語的反応を数値化して「態度」や「購買意図」を測定する
2. 「態度」や「購買意図」に基づいて「行動」を予測する
第一段階のリスクについては、消費者調査シリーズ第二回や第三回ですでに説明した。第二段階のリスクは、経験ある通信販売企業なら絶対にしない。通販企業は顧客の未来の行動は過去と現在の行動で判断するべきだと知っている。過去の行動データを分析する、あるいはテストをしてその結果を分析する。そして、次の行動を予測する。もちろん、予測が100%的中することなどありえない。それでも、「行動」で「行動」を推し量る方法が一番予測精度が高い。
態度から消費者の行動を予測することは、よく行くファァミレスのウェイトレスが「いらっしゃいませ」といつも極上の笑顔で迎えてくれるので、プロポーズしたらきっと僕と結婚してくれるだろうと判断するのと同じくらいに間違うリスクが高いのだ。
ん? 話を戻します。
2005年初めに米ビジネススクールの著名な教授が「新製品の失敗率が高いのは消費者調査が機能していないからだ」と噛みついた。そのころには、アンケート調査を中心とする定量調査よりも定性調査が重視されるようになり、定性調査のなかでも従来のフォーカスグループ調査ではなくエスノグラフィック調査に人気が集まるようになっていた。
マッキンゼーがつい最近興味深い調査結果を発表している。
米消費財(とくに日用品とか食品)メーカーの大手20社、つまり、マーケティングにおいては定評のある企業のなかで、カスタマー・インサイト分野で優れている企業は他企業とどういった点で異なっているか? 3つの要因が挙げられていた。最初の要因は、当然のことながら、顧客を理解しようとすることが企業文化や企業戦略の中心となっている・・・ということ。他の2点は・・・・
1. 消費者を理解するために、非伝統的な手法に他企業に比べてより多く投資している*
2. カスタマー・インサイト担当部署の責任者は平均して11年の経験があり、それは他企業よりも3倍ほど長い
このように、合理性、科学性を重視した調査から主観、直感をいとわない調査を積極的に採用するのが最近の傾向だ。サンプル数とかサンプルの偏りが統計学的に適正かどうかを重要視したアンケート調査に変わって、調査担当者たちの主観や直感の影響を受けやすい定性調査の比重が高くなっている。その定性調査では、比較的客観性が高いフォーカスグループ調査の人気が落ちている。P&Gのカスタマーインサイト元担当者は、平均8人の消費者と2時間過ごす(1人当たり12分)フォーカスグループ調査を50回するよりも、5人の消費者と一ヶ月かけて12時間過ごす個人深層面接法のほうが、ずっと実がある。消費者のことがホリスティックに理解できる・・と答えている。
合計400人のターゲット消費者の話を聞くよりも、5人の(異なる属性を代表する)消費者の深層心理を探ったほうがよい--主観を避け客観的科学性を追及した従来の調査態度とは隔世の感がある。
チョッカンが、ぴんと感じ取るだけの直感でなく本質を見抜く直観であることを祈るばかりだ。
マッキンゼーの調査には、カスタマー・インサイト分野で優れた企業の担当責任者の任務期間はそうでない企業の担当者に比べて3倍も長いという結果が出ている。これが、直感が直観になるための重要要因となっているのだろう。
なぜ?
答は一ヵ月後・・・・。
まだ、考えがきちんとまとまっていないから。
Intuition(直感、直観)の世界は奥が深い。いま流行の行動経済学においても、直観は重要なテーマになっている。次の「感情とブランド」シリーズのあとに、行動経済学についてもちょっと考え、そのあとで、消費者調査における直観について再度書いてみるつもりです。
(「感情とブランド」シリーズに続く・・・)
独断度100%のコメント
アンケート調査さん、ゴメンナサイ。悪口ばかり言ったみたいですが、とんでもありません。あなたは必要です。ってゆーか、あなたの代わりになれるようなコスト効率の良い調査方法は見つかりません。もともと、あなたにあまり期待しすぎるほうがいけなかったのです。既存商品を改良するために、たとえば、「いつお洗濯しますか?」と聞いて、夜お洗濯する人がけっこう多いので音の静かな洗濯機を開発する。こういった単純な行動に関する質問ならOKなのです。意図とか態度とか質問すること自体が間違っていたのです。でも、意図や態度に関する質問でも、短時間でコスト安にできるネット調査をして時系列で比較するのなら問題ありません。好き嫌いとか購買意図の高低とかその答の数値を絶対値としてみるのではなく、上がった、下がった・・と比較するのならOKですよね。
最近、深層心理を探るような質問の仕方をするアンケート調査もよくみかけます。これなどはアンケート調査とはいっても、もろ、主観、直観の世界です。担当者の経験・直観力が成否を決めます。
従来のフォーカスグループ調査は落ち目です。ウェブサイトでパネルを使ったグループ調査で同じような結果を得ることができます。しかも、参加者は周囲に気兼ねなく反論異論が言えます。じかに消費者に会って話を聞きたいのなら、エスノグラフィック調査のなかで質問してみればよいのでは・・・。
最近では、ネットでエスノグラフィック調査をする例もあります。化粧品メーカーが調査対象者に鏡台や洗面台の写真を撮ってメールしてもらったり、朝夜どういった手入れをしているのかを日記風に書いてメールしてもらう・・・らしいです。これに対しての意見は長くなるのでパス。でも、写真を送ってもらうってゆーのはグッド・アイデアだと思います。
ヨーロッパの家具メーカーをクライエントに持つ調査会社が、世界30カ国の一般家庭の各部屋の写真を撮ってビジュアル・データベースを構築。それに各国の風習に詳しい社会人類学者がコメントをつけました。たとえば、台所の写真を見ると、スウェーデンもインドもナベ・カマが戸棚にしまわれず出しっぱなしです。部屋の外見は似ていても理由は全然違います。スウェーデンは調理器具を贈る伝統があり、ギフトでもらったナベ・カマをこれみよがしに飾ります。インドは実用本位な考え方。どうせ料理をするときにまた出すのだから戸棚にしまうのはナンセンス。さすが近い将来のソフトウェア大国です(関係ないかな?)
参考文献:1.Blair Crawford,et al., How Consuemer Goods Companies are coping with Complexity, The McKinsey Quarterly 2.Finding That ‘Sweet Spot’: A New Way to Drive Innovation, Knowledge@Wharton, June 27,2007 3. Marketing Research, Marketing News Feb. 1. 2006
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