マインドフルネス・・・。聞き慣れない言葉ですが、仕事力(パフォーマンス)を向上させるマインドのあり方として注目度が高まっています。本連載では、パフォーマンスの原動力である「しなやかなマインド」の考え方やテクニックを紹介して行きます。
私なりに端的に言い換えると、「自分の脳の機能を上手に引き出して、仕事の成果につなげましょう」ということになります。
当たり前のことを当たり前にやる・・。でも、それが一番、むずかしいですよね。やるべきことに集中する、あるがままに事象を捉える、ごちゃごちゃした思考をスッキリさせてから考え直す、など。
これらの仕組みが、脳科学の世界で解明され始めたのは、ごぐ最近。まだ「わかっていないこと」の方が、圧倒的に多いそうです。
それでも、これまでのハイパフォーマーが体験的に実践していたことの「意味合い」とか「メカニズム」のヒントは沢山でてきています。この辺りのテクニックや事例などを整理して、お届けしていきたいと思っています。
今回は、総論的なところをまとめてみました。
もくじ
ビジネス界で注目を集め始めた
「グーグルやフェイスブックが会社として取り組んでいる」という記事がよくでています。「マインドフルネス」という言葉の意味は知らなくても、単語を聞いた事はあるかもしれません。
いつもググーグルが例にでてくるので、「実は、他社は取り組んでないのでは?」という疑り深い見方を、私は暫く持っていました(笑)。
下記に、幾つかのリンクを紹介します。英語のサイトだとかなり沢山ありますが、日本語は昨年の後半あたりから増えてきたのが実態でしょうか。
*米IT起業家らも注目の「マインドフルネス(Mindfulness)」って何だ?
*記憶力や免疫力をも上げる? 「マインドフルネス」とは結局何なのか・・ライフハッカー
*従業員のストレス軽減に効果的なトレーニング法・・ウォールストリートジャーナル
*5分で得られる、瞑想の意外な効果・・ハーバードビジネスレビュー
*More Mindfulness, Less Meditation・・The New York times
昔から、マインドの持ち方やセルフコントロールの仕方に関するノウハウはありましたが、「偉人の成功談」という形でまとめられたものが殆どでした。参考になるし、凄いな〜と思うものの「自分の様な一般人とは違う世界の話」と考えてしまう人も多かったのが実際でした。
25〜30年程まえから、認知療法やスポーツ心理学などの世界で研究が本格化しました。マインドフルネスを取り込んで、パフォーマンスを向上させることに成功したアスリートやビジネスパーソンが出現してきたのです。彼らの体験によって、効き目が確かめられてきました。
そして最近では、脳科学の発達のおかげで「脳の機能や訓練法」としての有効性を示す研究成果が次々と発表されるようになってきました。言い換えると、達人だけが理解できた精神論が、一般人も活用できる科学的な体系へと進化してきたのです。
脳科学の詳細まで立ち入る必要はないですが、ある程度は整理して、知っておくと得です。我々の日常の仕事や生活でより良い成果を生み出すヒントやコツが沢山あります。本連載では、そういうトピックを取り上げていきたいと思っています。
マインドフルネスとは
「意図的」に注意を払えている状態。
自分が何かの行動をとる時の「マインドのあるべき姿」「あるべき精神状態」として定義されるのが一般的です。ジョン・カバットジン博士(マサチューセッツ大学医学部大学院教授)の言い回しがスタンダードとして定着しています。
「自分の意思力をコントロールして、落ち着いて集中している精神状態」がマンドフルの意味合いです。「平常時だけでなく、複雑でストレス満載な状況のときにこそ・・」「感情や情動をうまく制御して・・」というニュアンスも含まれます。
「マインドフル」な状態を自分でキープできるチカラが、高いパフォーマンスを実現している人に共通する特徴なのです。そのようなチカラを養っているからこそ、能力を状況に合わせて適切に発揮して数々の課題を解決。成果へとつなげる事が出来きています。
一方、われわれ凡人は「マインドレス」に行動してしまう傾向にあります。「マインドフル」の反対です。上の空とか、心ここに在らず・・の状態。「深く考えずに」「あせって」「慌てて」「注意散漫で」「ぼ〜っとしてて」なども同様にマインドレスです。こういうクセがあるために、自分の潜在能力をうまく発揮できず、成果を得られなかったりするのです。
だから「仕事力を倍増する!」を目指す私たちのテーマは、「どうすれば、自分がマインドフルになれるか?」となります。こういう着眼点からの自分自身をバージョンアップさせる取組みです。達人の領域は無理だとしても、今の自分と比較してかなり上達することは可能です。「目標」「夢」「なりたい自分」などの実現に向けて、大きな推進力となってくれます。
『マインドフルな自分』と『マインドレスな自分』
マインドフルな人は、「ピンチやストレスに強い」です。例えば、やばい!とビビるような心臓バクバクの状況にも関わらず、頭をクリアにして、「今、やるべきこと」に全神経を集中する。次から次へと、不安や心配事が頭の中に押し寄せて来ても、それらに惑わされずに、優先度の高い項目に全力を傾ける・・。こういう人は、五感をフル活用して状況を先入観なく把握し、枠にとらわれない発想で対策を打てるので、それなりの成果をあげることができるのです。もちろん、「チャンスを確実にモノにするタイプ」でもあります。
一方でマインドレスな人は、「土壇場やココ一番に弱い」です。例えば、期限ギリギリに不具合が見つかって、「ぎゃあ″〜! 間に合わないぃぃ〜(>_<)」とテンパって頭が混乱したまま。頭をフル回転させているつもりだが、沢山の作業項目や心配事で注意散漫になって、ミスにミスを重ねてしまう・・。この人だってまじめに一生懸命なのは間違いないのですが、冷静に集中できておらず、様々な状況で出たところ勝負的な判断になりがちで、残念な結果に繋がる手をうってしまうのです。実は、「せっかくのチャンスで失敗してしまうタイプ」だったりもします。
実際には、100%マインドフルという人も、100%マインドレスという人も存在しません。視覚や音などの五感を通して外部から入ってくる刺激や、感情や欲望などの自分の内部で発生する刺激。そのような沢山の刺激に溢れる中で、ある時はマインドフルに、ある時はマインドレスに、そしてまた、ある時は・・という風に刻々と変化していくのが私たちの精神状態です。
だからこそ、何か大切なことをやろうとするときに、「マインドフルな自分になるスイッチ」を自分でオンにできるチカラが不可欠です。スイッチが自然に入るなんてことはあり得ないからです。むしろ、つい油断してしまって、体や気持ちが刺激に釣られてしまう、すなわち「マインドレスな自分へのスイッチが勝手に入ってしまう」ので困ることが多いからです。
特に、プレッシャーがかかったりストレスな状態になると、マインドレスに反応しがちです。さっきまで集中していたはずなのに、いつの間にか考えごとや不安などの一種の雑念にとらわれて、マインドレスな状態に一直線・・・。その結果、普通だったら気づくはずの沢山の情報を見過ごしてしまい、成果があがらない事態に陥ってしまうのです。
「マインドフルネスになるセンス」は練習で伸ばせる
マインドフルな自分を手に入れるには、それなりの練習(エクササイズ)が必要です。健康な体を手に入れるには、適度な運動が必要なのと同様です。
それは、落ち着きを取り戻す為の頭のリセット法だったり、途切れがちな集中力を復活させるための自己観察法だったり複数あります。ウエートトレーニングでも、強化する場所や目的の違いによって、数々のメニューがあるのと似ています。
以前では、このようなトレーニング方法は、達人が自分の成功体験から編み出したエクササイズが主体でした。達人だからこそ気づくことができた個人的感覚で開発されたものでした。しかし、最近では、手法の有効性が科学的に検証されたり、脳の機能として確認されてきているので、エクササイズのメニューも体系的に整備されてきています。
別の言い方をすれば、脳が仕組みとして備えているチカラをフルに発揮させるノウハウを凡人でも入手できる時代になったのです。「センスがないから無理」というものではありません。誰もが、その「センス」を持っているのです。だから、体系的な考え方やエクササイズを参考にすれば、自分ひとりでは気づくことが出来なかったような強化の仕方や実力の発揮の方法などの「隠れたセンス」を花開かせることができるのです。
だからこそ、「マインドフルな自分をキープできたら、自分の潜在能力をフルに引き出すことができる」ということを、仕事力のアップ/パフォーマンスの向上への第一歩として頭に刻んでおきたいのです。そのつもりでない限り、力量を伸ばすことは出来ないからです。実現の仕方/使いこなし方はその次です。
マインドフルネス•アプローチを自分の「型」に
「スッキリとした頭で落ち着いて、目の前のタスク(やらなければならないこと)に集中する」。当たり前のことを当たり前にやる・・と言ってしまえば、それまでですが、これを仕事の中で実践するのは簡単なことではありません。少しでも楽に自分のものにできるように、私たちは一連の「プロセス」として整理しています。これを一種の「型」として心がけるようにしています。
<成果を生み出すマインドフルネス・アプローチ>
(1)気分リセット
まず最初に頭の中をクリアにします。「気分転換する」と理解しても結構です。パフォーマンス発揮に最も適した精神状態・・集中かつリラックス・・を自分で作り上げます。終わってからではなく、始める前にメンタルコンディションを整えるのがポイントです。
(2)目標イメージ
達成したいゴールを構築あるいは再確認します。言語表現だけでは不十分で、ビジュアル表現まで展開できていることがポイントです。最終的な到達地点をイメージするとともに、到達方法についても脳内シミュレーションします。
(3)集中実行
覚悟・決心をつけて、やるべきことに集中します。すぐに雑念や邪魔がはいり、注意散漫になってしまいます。そのときにポイントとなるのは、「集中力を復活させるコツ」をマスターしておくことです。自分の精神状態を常にモニターできる冷静さが大切です。
(4)振返り
目標に対しての成果を確認します。平たく言えば「反省」ですが、客観的に成果を捉え、教訓を引き出すことがポイントです。真面目な人ほど、「全然出来ていない!」と厳しく(=客観的ではなく主観的に)に評価してしまうので注意が必要。また、根拠なく楽観的すぎるのも危険です。
この4ステップをマインドフルな自分へのスイッチをオンにするための「型」です。次回以降、一つ一つの意味や考え方等も解説していきます。読者の皆さんであれば、ある程度は出来ているはずです。全くダメ〜という方はいないハズ。だからこそ、注意が必要です。
「ある程度、出来ているから・・」と油断して流してしまう危険があるのです。まさに、「マインドレス」になっていまうのです。実力をバージョンアップさせるために、「マインドフル」に自分自身を点検し、課題を発見し、上達の練習を行っていきましょう。
そのための実践のヒントや練習のアイディアを、次回からお届けしていきたいと考えています。これから取り上げるようなトピックとしては、以下のようなものを予定しています。
▼ 落ち着きとパワーを取り戻す『瞬間リセット法』
▼ 集中力とリラックスを呼び込む『パフォーマンス・ルーチン』
▼ 豊かな発想を引き寄せる『ビジュアル思考』
▼ 固定観念や思い込みを振りほどく『口ぐせトーク』
▼ 目標達成を加速する『AAR流ふりかえり』
▼ 浮き沈みする感情をコントロールする『ファクトMAC法』
▼ 意識をもってタスクを実践する『トップダウン認知』
皆さんからのリクエストがあれば、ぜひお寄せください。どうぞよろしくお願いいたします。