業務改善や業務改革というと、即、IT(システム)導入だと考える傾向があります。IT産業による洗脳の効果でしょうか、国内12兆円のIT市場(なんと国内ビール市場のほぼ10倍!)の影響力は凄いものです。しかし、落ち着いて考えれば当たり前のことですが、業務システム自体は、業務プロセスを自動化することを中心とした幾つかの効力を持つだけで、それ自体が業務を改善してくれる魔法の杖なのではありません。
業務システムといっても多義にわたりますが、ここで話題に上げている業務システムは、SAPやOracleで構成された受発注、物流、会計などのERPシステムのイメージです。これらの業務システムがもたらす本質なメリットは、
- ・自動化(転記や集計を人がやらなくても済む)
- ・物理的分散化(東京支店と大阪支店が距離を苦にせず仕事ができる)
- ・検索性の向上
- ・セキュリティーの向上
- ・省スペース化
- ・スピード化
あたりだろうと筆者は考えています。
いずれも大切な視点で、業務システムが企業にもたらしたメリットが大きいことは否定しませんが、同時に、このような視点だけに躍らされて本質を見誤ったシステム投資が、企業に与えてきた損害も無視できません。すでに莫大な投資をしているにもかかわらず、複雑な現場の業務プロセスをカバーできないからといつまでも始動しないERPパッケージ、現場が一生懸命入力しているローデータを誰も生かせていない、負荷だけが増えた新システム・・・などなど、みなさんの周囲でも、思い当たるケースが数々あることでしょう。このような結果にならないためには、まず、本来のあるべきゴールを設計した上で、システム導入をその手段として利用することが大切です。
システム導入の話が持ち上がっている場合、当然、その手段の先に目的があるはずですが、目的は明確になっていますか?「手段と目的を取り違えて、手段を目的化してしまってはいけない」なんて、普通のビジネスパーソンに面と向かって言ったら失礼なほど当たり前のことですが、目的をしっかり明示せず、または共有せずに走り出してしまう業務改善プロジェクトは、意外にも結構あるものです。本コラムに掲載されている漫画の例は決して、『特別にお馬鹿な』例ではないのです。「プロジェクトの目的(=ゴール)を明確に設定する」ことはプロジェクトマネジメントの第一歩です。
では、業務改善のゴールとはどんなものでしょうか?そもそも業務改善は、業務における問題の解決を目指すわけですが、その問題解決とは、「ありたい理想の姿と今ある現実の姿のギャップを埋めること」と説明されます。業務改善の場合、この理想や現実の「姿」が、業績指標、業務指標、KPIと呼ばれるものであらわされます。つまり、業務改善プロジェクトのゴールは、「業績指標を目標値へ改善すること」と言えるわけです。
もう少し、具体的な話をしましょう。
業務改善をする必要が生じているとなると、
- ・もっと効率的に事務処理をできないだろうか?
- ・もっとお客様が喜ぶ接客・応対ができないだろうか?
- ・もっと正確な受発注処理ができないだろうか?
- ・もっと経営判断に生かせる社内資料を作れないだろうか?
- ・もっと業務を分かりやすいプロセスにすることで、仕事の属人化を防げないだろうか?
といった、理想へのギャップが認識されているはずです。
これらギャップを定量的に捉えたものが、業績指標、業務指標、KPIなどと呼ばれる「指標」です。上記の例であれば、それぞれ以下のような指標を設定することができるでしょう(指標は色々設定できるので、以下はあくまで例としてとらえてください)。
- ・もっと効率的に事務処理をできないだろうか?
⇒注文1つあたりの事務処理費用や所要時間 - ・もっとお客様が喜ぶ接客・応対ができないだろうか?
⇒お客様アンケートによる満足度やリピート率 - ・もっと正確な受発注処理ができないだろうか?
⇒受注処理のミス率 - ・もっと経営判断に生かせる社内資料を作れないだろうか?
⇒経営陣の満足度 - ・もっと業務を分かりやすいプロセスにすることで、仕事の属人化を防げないだろうか?
⇒業務ローテーションの頻度
これらの指標を現状から理想に引き上げることが、業務改善のゴール(=プロジェクトの目的)です。
業務改善プロジェクトは、このようなゴールを通常複数個設定してスタートします。そして、その改善のための手段・打ち手のひとつとして、システム導入が検討されるわけです。
さて、業務改善プロジェクトの現実(スタート)と理想(ゴール)を計る指標について、話をもう少々進めましょう。
これまで業績指標、業務指標、KPIなどと呼んできましたが、業務改善を進めていく上で、これらの指標は大きく2種類に分けて理解する必要があります。
アウトプットとアウトカムの2つです。
細かい説明を省き、まずは例から入ってみましょう。
- ・信号機の増設(アウトプット) ⇒ 交通事故の減少(アウトカム)
- ・適切な投薬(アウトプット) ⇒ 風邪が治る(アウトカム)
- ・美味しい弁当(アウトプット) ⇒ リピート購買(アウトカム)
- ・役立つ経営資料(アウトプット) ⇒ 適切な経営判断(アウトカム)
いかがでしょうか?イメージがわきましたか?
簡単に言うと、アウトプットとは自分たちでやれば出来ること、アウトカムはその結果として起こる状況です。アウトプット指標を活動指標、アウトカム指標を成果指標と呼ぶこともあります。
業務改善において、この2つの種類をごちゃ混ぜに考えてはいけません。アウトプット指標は自分たちで直接コントロールできるのですが、アウトカム指標は、アウトプット指標を通してしかコントロールできないのです。したがって、理想の姿でアウトカム指標がでてきたならば、それらをコントロールするためのアウトプット指標を明確にして、その連鎖を認識した上で、プロジェクトのゴールを設定する必要があります(この点をもっと詳しく知りたい方は「バランススコアカード(BSC)」を勉強してみてください)。
さて、今回のお話はいかがでしたか?
一見「当たり前だ!」と思ったゴール設定の話ですが、決して馬鹿にしないで、きっちりと設定した上で業務改善プロジェクトをスタートさせましょう。ゴールが明確に設定されていないと、漫画の例のように、手段(システム導入)が目的化してしまうことも多くなり、そもそもプロジェクト期間が終っても、それが成功だったのか失敗だったのかもわからず、したがって当然達成感もなく、徒労感だけが残る・・・という結果になってしまいます。ゴールを明確にすることで、プロジェクトの仲間と一緒にマラソンのゴールテープを切るように、達成感のある業務改善プロジェクトを味わってください。
プロセス・ラボ社は企業の業務現場、製造現場、システム導入・運用の現場における業務改善コンサルティングを手掛ける。
業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。
(コンサルティングメニュー)
■講義中心に学ぶ→業務改善手法の研修 ■手を動かしながら技術を身につける→フローチャート作成講座/業務改善ワークショップ ■改善成果をあげながら体得する→業務改善コンサルティング/システム(ERP)導入コンサルティング/業務フローチャート作成請負