議論が噛み合わないで困っていませんか?
この問題は何も業務改善プロジェクトに限ったことではありませんが、通常業務に比べ、いわゆるプロジェクトでは未知の領域に踏み込むことで圧倒的に議論の機会が増えることから、議論が噛み合わないことは普段以上に大きな問題となります。議論が噛み合わないと、生産性が低くなるどころでは済まず、心理的に苛立ち、プロジェクトチーム内の対立にもつながってしまいます。前回のコラムでは、議論を噛み合わせるためのポイントとして、「議論を分けてすすめること」について話しました。今回はもうひとつのポイント、「議論の可視化(見える化)」について話しましょう。
今回のポイントである「議論の可視化(見える化)」には3つの段階の可視化があります。
①:キーワードの可視化
②:論点の構造の可視化
③:議論の進行の可視化
という3つの段階です。この3つの段階を順に考えていきたいのですが、その前に、「可視化/見える化」とはどんな意味をもつのかを考えてみましょう。
一般に、人間は情報の8割を視覚から受け取っていると言われます。つまり、どんなに上手に話して伝えても(聴覚に情報を伝えても)、全体像を把握し正確に理解するためには「見えること」に、なかなか勝らないのです。業務改善プロジェクトのように、複数の部署や担当者が関わる複雑な議論が可視化されない状態では、議論の参加者がそこから情報を的確に受け取り、建設的な対話を進めることが難しくなります。
また、目から入った情報は他の感覚から得たものより強烈なせいか、具体的な行動に結び付いていきやすいものです。自動車事故の話を何度も聞くよりも、目の前で実際の事故を見たほうが、自動車保険に入る決め手になるのではないでしょうか。「百聞は一見にしかず」とは上手く言ったものです。
また、目は「自然と見える」機能をもっているものの、「可視化/見える化」においては単に見える状態にするだけでは不十分で、人の意思を超えて「見させる」、すなわち、勝手に目に飛び込んできてしまい、脳みそに働きかけることが大切になります。
さて、それでは本題にはいっていきましょう。
まずは、「①:キーワードの可視化」についてです。
この点を考えるにあたり、ある会議を覗いてみましょう・・・。
Aさん:「商品の発送が遅いとお客さまからクレームがあり、調査の結果、発送指示書が物流部に来るのが遅いことが発送遅延の原因だとわかりました。」
Bさん:「どのくらいのお客様がクレームしているのですか?」
Aさん:「先月は2000名のお客様のうち、2%弱にあたる37名からクレームがありました。」
Cさん:「発送遅延は指示書の到着の問題だけではなく、請求書作成に時間がかかるのも一因だと思いますが・・・」
Bさん:「そもそも請求書の作成にはどのくらいの時間がかかるのですか?」
Aさん:「請求書の作成には、1件、10分程度を要しています。」
Bさん:「その程度の時間であれば、発送遅延には繋がらないと思いますが。」
Cさん:「1件あたりの時間は少ないのですが、処理が追いつかず1週間分が溜まってしまうこともあるのです。」
このような議論はごくごく標準的で、よくある展開ですよね。
さて、ここで想像していただきたいのですが、この議論がもし、皆さんの会社でされていたとしたら、誰かが議論をホワイトボードに記録しているでしょうか?私の経験からすると、3割程度の会社では誰も記録していない(全員が脳みそに記録しているだけ)という状況です。
人間の脳みそのメモリー(短期的な記憶スペース)は7つ程度しか保持できないのです(脳のマジカルセブンというそうです)。となると、次の意見がでるころには、Aさんの最初の発言は参加者の皆さんの記憶からは消えつつあるころです。
言葉は、口から出てはどんどん消えていくものです。消えていくから、議論は永遠にまとまらずに堂々巡りしてしまう・・・なんてことは時間の浪費です。この悪循環を断ち切るためには「言葉の保存」が大切です。
では、具体的にどうすれば、言葉を保存することができるのでしょうか?あまりに初歩的なことですが、まず、議論の際にはホワイトボードなどを利用しましょう。出てくる言葉をどんどんホワイトボードに書いていくことで、発言が「見える」ようになります。議論の参加者全員の目の前に言葉が可視化され、保存されることで、同じ議論の繰り返しを避け、論点の明確化や整理がしやすくなります。
ホワイトボードに書き込む以外に、ポストイットに記入してそれをホワイトボードに貼りだすことも効果的です。ポストイットは、後で切り貼り・マッピングができる点(この点については後段で補足します)で、さらに便利なツールといえるでしょう。
いずれの場合も、発言のすべてを正確に書き出すのではなく、端的なキーワードにまとめて書き出せば事は足ります。
例えば、上の議論であれば、以下のようなポストイットが書き出されるでしょう。
「商品発送の遅延」
「顧客の2%がクレーム」
「発送指示書の遅延」
「請求書作成の遅延」
「処理件数ボリューム」
「1件10分」
次に「②:論点の構造の可視化」についてです。
これは、出てきた言葉の関係を、目に見える形で組み立てていくことです。
- 同義グループのマッピング(同じ趣旨を1つのグループにまとめる)
- グループ間の関係性を矢印で、因果関係(⇒)、対立関係(⇔)などにより表現
- ツリー型(意見を階層的に分類)、マトリクス型(複数の対立軸による整理)、座標軸などを使い、議論の構造の整理
をしていきます。
こうすることで議論の全体像が整理され、参加者全員の共通理解を得やすく、誤解や理解不足による不毛な議論を避けることができるようになります。
このとき、各キーワードがポストイットに書き込んであると、書き直しの手間が省けるので大変便利です。
先ほどの議論の例では、下図のように、ポストイットは整理されるでしょう。
最後に「③:議論の進行の可視化」についてです。「議論の進行の可視化」をするとは、会議の中で取り上げる議事の内容と、その割り当て時間を表にしたもの、つまりスケジュールを作成し、それを常に参会者に意識させることです。
このスケジュールをホワイトボードの左上に配置したり手元の資料に配布したりしておくと、議論の道筋が示され、本題を常に参加者に意識させることができます。
会議終了後、「今日は○○について決めなきゃいけなかったのに、結局何も決まらなかったなあ」「全部持ち帰り検討になるのだったら、何のための会議だったんだろう?」などと感じることありませんか?
あらかじめ各議事の内容、つまり議論のゴール設定を時間軸に沿って可視化しておくと、枝葉末節の議論に必要以上の時間を費やしたり、終わることのない脱線を防いだりでき、議論そのものや参加者の焦点を、ゴールに向かって適切にコントロールする(=道筋を示す)ことができるのです。
連載3回目の今回は、前回に引き続き、議論を噛み合わせるための秘訣についてお話ししました。ここで前回分もまとめて簡単に振り返っておきましょう。
議論を噛み合わせるためには、①議論を分けること(問題そのものを分けて考えることと、プロジェクトのフェーズを区切って捉えること)と、②議論を可視化すること(キーワードの可視化、議論の構造の可視化、議論の進行の可視化、)がポイントでした。これらを合わせて活用することで、プロジェクトの議論が空中分解してしまったり、消化不良になってしまったりすることがずいぶん減るはずです。議論が噛み合うようになればしめたものです。有意義な議論はプロジェクトの活気を維持し、生産性・効率性を上げることに直結します。
次回は、業務改善プロジェクトのゴール設定について、その考え方をご紹介していきます。
プロセス・ラボ社は企業の業務現場、製造現場、システム導入・運用の現場における業務改善コンサルティングを手掛ける。
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