第2回目で、新発想のもとでは、例外処理も簡単に業務フローチャート上に可視化できることがわかりました。連載3回目となる今回はもう一つの課題、業務フローチャートの構成単位である作業の粒度をどのように統一するのかについて、考えていきましょう。
●粒度の統一が難しいのはなぜか
業務フローチャートは、業務プロセスの全体像を表すものです。1つの業務フローチャート上で、全体を構成する部分つまり1つ1つの作業の大きさ、「粒度」がバラバラだったらどうでしょうか。すべての業務バリエーションをきちんとカバーしていたとしても、「これで全体像が分かる」とは感じられず、使い手としては困るのではないでしょうか。
粒度を考える際に重要なことがあります。一般に、部分が分かっているものをまとめることは楽でも、全体しか分かっていないものを部分に分割する作業は大変です。足し算よりも素因数分解が格段に難しいことと同じです。
それなら一番小さな単位で作成したものをベースに、目的に応じて要約する(足し算する)というアプローチがよいかもしれませんが、小さな単位で作ることで、逆に作成自体に労力が増したら意味がありません。小さすぎて、担当者レベルでさえも意味のないような単位になっても困ります。意味があり、把握が容易な最小単位が、望ましい粒度ということになります。
さて、ここからが本題です。まず、作業の粒度の定義を困難にしている原因は何か、考えてみましょう。
これまで業務フローチャートを作成する時に、「この作業は何か?どういうことか?」と考え、最初に、作業の名称の定義をしようとしていませんでしたか?実は、作業名という抽象的な名称を探すことが個人差を生じ、粒度を不ぞろいにしているのです。
●業務とは何か
業務の構成単位である作業の粒度を考えるにあたって、「そもそも業務とは何か」を考えたいと思います。情報化された現代において業務とは、製造現場であっても「情報」の加工です。情報は伝達され、徐々に加工されて、業務プロセス上のアウトプットに生成されていきます。それなら、情報の加工を1つの作業として把握すれば、粒度を一定にできるのではないでしょうか。
情報は、紙や電子ファイル、音声などを媒介して初めて伝達可能になります。つまり、組織において情報が伝達されるときには必ず、その情報が載った媒体があるのです。
情報化が進んだ現代では、業務プロセスを、「見ることで認識できる媒体上での情報の加工の流れ」としてとらえることができます。つまり、作業とは「どのような媒体に対して、どのような加工をするのか」、より簡潔にいうと「何を・どうする」で定義することができるのです。
●ケーススタディ:新発想の業務フローチャート
第1回・第2回と同じ例で、再度考えてみましょう。以下の例は、商社における受発注の業務内容を各担当者にヒアリングした結果です。
1. 塚口:
私が、随時FAXで送信されてくるお客さまからの注文書を受け取っています。FAXを受け取ると私は、注文書に日付印を押して、その後、すぐに森山さんのIN-BOXに保管します。
2. 森山:
私の注文書に関する仕事は、まず形式的な不備をチェックして、問題がなければ注文内容を社内システムに入力します。次に、その顧客の与信残高一覧を社内システムから印字して、注文書にセットし、各営業担当者に渡します。
3. 田中:
私たち営業担当者は注文書を受け取ると、個社別の信用調査ファイルを棚から取り出してきます。新規の注文により発生する売掛金が、すでに稟議済みの与信枠の範囲に収まることと、注文内容や仕様が稟議済みであるかも確認します。問題がなければ、注文書に捺印して、森山さんに戻します。
今度は「何を・どうする」で作業を定義することを考えてみます。今回の考え方は以下のように定義でき、それにもとづいて作成される業務フローチャートが図6となります。
【要素】 | 【分類】 | 【ルール】 |
---|---|---|
誰が | 絶対的記載事項 | スイムレーンにより定義 |
どうする | 絶対的記載事項 | 「何を」のスイムレーン内に情報を加工する動作を体言止めで記載 |
何を | 絶対的記載事項 | スイムレーンにより定義 |
図6:新たな記載ルールに基づく業務フローチャート
「誰が」「何を」「どうする」の3要素による構成
いかがでしょうか。第2回で作成した図2のフローチャートと比較すると、「何を」が絶対的記載事項として専用のスイムレーンにより定義されていることが、分かると思います。
●粒度を定義づけることの効果
他人の業務内容をヒアリングした経験のある人なら、きちょうめんな人と大ざっぱな人では、自分の業務に対するとらえ方(粒度)が異なることに気付いたことがあると思います。
このような状況で業務フローチャートの作成を各人に任せたら、どうなるでしょうか。しかも「誰が、何を、どうする」の各要素のすべてを1つの点で示す従来の方式で、思い思いに作成したとしたら?きっとそれぞれ、全く粒度の異なる業務フローチャートが出てくることでしょう。それらのフローチャートを見る人は混乱してしまい、全体を把握することは困難になります。
しかしすでに述べた通り、新発想の業務フローチャートでは、作業を「媒体上で行う情報の加工」と定義しています。この定義に従って、「情報の載った媒体に対して、何か加工をしているか」「どのような媒体に対して、どのような加工をするのか」と担当者に問うことで、作業を特定していくことができます。つまり、ヒアリングの内容を、媒体と加工する動作を軸としてそれぞれ組み立て直すことで、自然に作業の粒度はそろってくるのです。
さらに、この手法により粒度を定義づけることには、いくつかの副次的な効果があります。
第1に、従来「重要ではない」とか「描き切れない」ということで省かれることが多かった書類が、業務フローチャート上に網羅されるようになります。
第2に、「情報の加工」という切り口は、日本版SOX法など内部統制の視点と親和性が高いということです。作業を「媒体上で行う情報の加工」と定義しているので、この方法では、情報に何らかの加工がされるポイントをモレなく抽出することが可能です。日本版SOX法は財務情報にフォーカスしていますが、業務プロセス上で財務情報の正確性を脅かすリスクは、情報に加工がされるところに存在すると考えられます。そのため、このように作業を定義すると、リスクとコントロールを業務フローチャート上に正確に示すことができるのです。
第3に、情報の流れが分かるため、情報源をトレースしやすく、情報システムの開発や業務上の問題点の解明に役立つことです。
これまで2回に渡り、従来型業務フローチャートの課題をどのように克服するかについて説明してきました。作業の構成要素を分解し複数の流れに切り分けて、1つの作業を複数の観点から再構築する、という発想の転換が課題克服につながったのです。
次回は、「時間」という要素を業務フローチャートに反映させる方法について解説していきます。
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