資格取得を目指すビジネスパーソンが増えていると聞きますが、仕事と家族サービスで勉強時間を捻出するのに苦労されているのではないでしょうか?忙しい方はやはり勉強の「質」で勝負するしかありませんね。今回はそんな勉強にも使える方法をご紹介。
アウトプットでしょうか?
効率的にものごとを記録する。記憶する。そして、その成果として学習や仕事というアウトプットをする。をする。「良質なアウトプット」のためには、実は大きなポイントがある。今まで何度か触れてきたことではあるが、様々な記事・コラムの引用と、新ネタを加え全体を整理してみたい。
■なぜ、アタマに入らないのか?
日常生活において、何かをアタマにインプットしなければならない局面は多々ある。端的な例では、学校での勉強がそうだろう。新しい仕事を覚えることもそうだ。そんな時、どのようなインプット方法、つまり、覚え方をするだろうか。
恥ずかしながら、筆者は学生時代、暗記科目が全くダメだった。自らの物覚えの悪さに閉口したものだった。・・・今でもその傾向は否めないのだが。
しかし、実はそのインプットの「方法論」が間違っていたようなのだ。
■脳科学で実証されている、効果的なインプットのための「アウトプットの効用」
少し前にNBonline Associeに掲された脳学者・池谷 裕二氏による記事、「潜在“脳力”を活かす仕事術」の第1回は非常に示唆に富んでいた。「脳は”入力”より”出力 ”で覚える」というタイトルだけでも「なるほど!」と思ってしまうが、少し要点を見てみよう。
<私たちの脳は、情報を何度も入れ込む(学習する)よりも、その情報を何度も使ってみる(想起する)ことで、長期間安定して情報を保存することができる>
<参考書を繰り返し丁寧に読むより、問題集を繰り返しやるほうが、効果的な学習が期待できる>
<営業職のビジネスパーソンなら、自社製品の技術資料を繰り返し読むより、顧客先で何回もプレゼンテーションをこなす方が、製品の情報がよく頭に入るということ>
そして、第1回の結論はこうだ。
<入力よりも出力を重視 ── 脳はそうデザインされているらしい。 >
とにかく、「出力(アウトプット)すること」。これは重要なキーワードなのだ。思い起こせば、筆者の学習はいつも一生懸命、参考書を「読んでいた」。「ノートに書き写せ」とか、「問題集をやれ」と言われても、手を動かすことを面倒がってやらなかった。決定的に方法論が間違っていたのだ。
■コンサルタントは常に「アウトプット」を意識している
この「アウトプットする」ということは、筆者の生業であるコンサルティングにおいては最も重要なことだ。その質と量によって評価が決まることは言うまでもない。しかし、インプットがなければ、当然、アウトプットはできない。いかに効率的に、かつ、良質な情報を整理してアタマにインプットするかが勝負の分かれ目になる。
そこで、大切なのは、「アウトプットを前提として、インプットすること」なのだ。
筆者が参画している、「INSIGHT NOW」という、総勢70余名の独立系コンサルタントが集っているコラムサイトがある。そのコンサルタンを対象に、アンケートを実施し、「Think!春号(東洋経済新報社)」に「大公開!コンサルタント50人の”勉強力”」記事が掲載された。
記事が仕上がって驚きつつも、納得したのが、コンサルタントは皆、学習法でも情報収集法でも、共通して「アウトプットを前提としたインプット」を実践していたということが顕著に浮かび上がってきたと言うことだ。
筆者自身のことを記そう。自らの「情報収集術」について、囲み記事で紹介していただいたが、ポイントは、同様に、「アウトプット前提のインプット」である。
手前味噌ながら、Blogは、平日は基本的に1500文字程度の記事を書いて毎日更新している。それ以外にも雑誌原稿やメルマガ原稿など、執筆量は月産3万字を超える。加えて、コンサルティングのレポートや、研修講義資料。書き物だけでなく、プレゼンや講義もアウトプットだ。その膨大な量は、同等以上のインプットがなければ実現できない。
しかし、人間は誰しも1日24時間、1年365日の等しく与えられた時間の中で生活している。となれば、インプットを効率化するしかない。その方法が「アウトプット前提」なのだ。
何かを目にする。読む。聞く。全てを「何かに使えそうか?」というアウトプットをイメージして、アタマの中に「仮置き」しておく。それがインプットのコツだと思う。
人の記憶は時間の経過と共に、急速に減衰していく。「忘却曲線」というものでよく知られている。しかし、忘却曲線の実験は、ランダムな言葉(意味を持たない言葉)をどれだけ覚えていられるかというものだったため、きちんと「意味づけ」して、アタマに整理しておけば、かなりの長期記憶に転換することができると筆者は考えている。
しかし、この「インプットとアウトプット」は、コンサルタントだけに有効な方法ではない。以下に、2つの事例を示したい。
■新入社員にブログを書かせる
通信教育の「Z会」では、「新入社員にブログを書かせる」という教育をしているという。
新入社員にはとかく教えなければならないことが多い。さらに、学生気分から、社会人・組織人へとの意識転換と気付きを与えなければならない。言うは易く行うは難い、伝統的なテーマだといえるだろう。
詰め込んだり、プレッシャーをかけても効果はない。新入社員の情報処理能力はそんなにまだ高くはないし、意識など簡単に変わるはずもないのだ。そこで、大切なのは「自ら気付かせること」である。そして、そこでも効果的なのが「アウトプットさせること」なのだ。ブログを書かせることによって、当然、ネタを自ら探す。そして、整理して記事にする。その課程で、重要なことがきっちりとアタマの中にインプットされることになるのだ。
この取り組みは同社だけでなく、採用している企業も多くなっているようだ。今年、数社から同じような取り組みとその成果を聞くことができた。是非多くの企業で取り入れてもらいたい内容だ。
■「傾聴」のためのアウトプット施策
上記のような取り組みは、さらに幅広い応用が可能だ。筆者の社会人としてのキャリアはコンタクトセンターから始まったが、その業界のカンファレンスで最近面白い話を聞いた。
コンタクトセンターの重要な任務の一つは、いかに「顧客の声(Voice Of Customer)」を収集するかである。そのために、センターで顧客と電話応対を行うコミュニケーターは、「顧客の声に耳を傾けろ「傾聴せよ」と教育される。しかし、これがまた、なかなか言うは易く行うは難いのだ。ついつい、大切な話をスルーしてしまったり、自ら思い込みで判断してしまったりと、なかなか顧客の思いまでを汲み取るまでは難しいのである。
そこで、メーカーのお客様相談室では「提案制度」を採用した。「提案制度」事態は珍しいものではないかもしれないが、その徹底度がすばらしい。
週に1つ以上は、末端のコミュニケーターも、その管理をするスパーバイザーも、センターマネージャーも、顧客の声を元にした提案を提出することが義務化されている。新製品でも、製品改良でも、応対業務に関する改善でもかまわないが、何らか、論拠となる顧客の声を示し、そこから自説を加えて提案を作るというのだ。
これによって、コミュニケーターは、より丁寧に顧客の声を汲み取るようなオペレーションを実施する。また、スーパーバイザーは、応対内容を聞き漏らさないよう、応対のモニタリング業務に注力する。マネージャーも部下からの話から、きちんと重要な顧客の声を吸い上げようとする。
つまり、「週1回の提案」というアウトプットの義務化によって、センターの誰もが、一層、顧客の声の耳を傾けるという、「インプットの良質化」を図ることに繋がったということなのだ。
インプット←→アウトプット。このバランスは、ついつい、より良いアウトプットをしようとするが故に、ただひたすらインプットに注力しがちで、結果的にそれは効果的ではなく、プアなアウトプットになってしまいがちだ。今回整理した、「アウトプットを前提として、インプットすること」には、様々な方法があろうかと思う。しかし、その根本にある考え方を理解し、実践することをお勧めしたい。