マーケティング戦略を組み立てる上で市場環境分析は外せませんよね。そして分析の素材となるのがファクト(事実)です。そうファクトに基ずいた分析が重要なのです。当たり前のようですが、このファクトってやつは案外やっかいなのです。塊の大きさが違ったりして素材として使えない場面もあったり、2つの顔を持っていたり・・・。今回はカナモリさんに、この厄介者の取扱について解説頂きます。
本コラムは ブログ:Kanamori Marketing Officeの2007年7月の記事を転載しております。
好景気であり、多くの業種ではフォローの風が吹いているといえる今日のビジネス環境であるが、その変化はめまぐるしく、市場環境の把握とそれに伴った打ち手の見直しは手を抜けない。千年一日のごとき商売などもはやどこにも存在しないのだ。
しかし、様々な企業の戦略立案や施策立案のお手伝いをしていると、どうも忘れられがちな部分があることに気付く。それが「ファクトからのメッセージ化」である。
「マーケティング」というと、すぐに「4P(Product戦略・Price戦略・Place戦略・Promotion戦略)」を想起されてしまいがちであるが、それは「打ち手」。まずは「市場環境の分析」が欠かせない。マーケティングのイロハのイである。
ビジネススクールでの講義や企業研修では当然のようにその部分から入っていくのであるが、実際のビジネスシーンは残念ながらそうなっていない。「最近厳しいねぇ。で、どうする?」というような大雑把な会議が行われているのである。「厳しいねぇ」は確かに環境を表しているのだが雑駁に過ぎる。当然、マクロ環境・ミクロ環境を詳細に押える必要がある。その環境の詳細な分析が「ファクト」の抽出だ。
マクロ環境の分析で代表的なフレームワークは「PEST分析」である。(分析事例のバックナンバーはこちら)。そして、ミクロ環境は3C分析が一般的だろう。3Cとは“Customer(市場・顧客)”“Competitor(競合)”“Company(自社)” の頭文字である。3つのCのどこに注目すべきかをさらに解説するなら、まず「市場の環境と顧客のニーズ」に注目し、「競合の動き」を見る。さらに「自社が顧客ニーズにどの程度対応できているのか。また、競合の動きで顧客ニーズに対応できていない部分をどの程度すくい取れるのか」を洗い出していく。
まぁ、このフレームワーク通りかどうかはともかくとして、この内容の「ファクトの洗い出し」はある程度業務経験のある人ならばできるが、その「意味合い」=「メッセージ化」まで丹念に行っているケースはあまり見かけられない。ファクト→打ち手に走るのが上記の通りよくある姿だ。
「意味合い」=「メッセージ化」のためのフレームワークは「SWOT分析」がよく知られている。しかし、上記のPESTと3Cとつなげて考えられていることは少ないように思う。「まずは分析」と着手するのはいいのだが、いきなりこのSWOTのブランクの表を前に、ウンウンと唸り、脂汗を流している人を見かける。それはそうだ。SWOTはPEST、3Cで洗い出されたファクトをメッセージ化(意味合い出し)するためのもの。慣れればできるが、普通はいきなりここから手を付けると苦労する。(参考:3CとSWOTの表のイメージはこちら)
当然、そこで用いる要素はPESTと3Cで洗い抽出したものだ。つまり、丹念に分析するためにはPEST、3Cと連続して行い、そこで用いる”要素(ファクト)”も一つのファクトからもプラス要因とマイナス要因という両面から見て「意味合い」を抽出していく。その多面的な分析こそがミソなのだ。
「意味合い」をよく考えれば、きちんとした「打ち手」が考えられる。逆に単なる「ファクト」からだけ、「打ち手」を考えたのでは結果は曖昧模糊とし、明確な打ち手は考えられない。また、抜け・モレも発生する。「意味合い」は以下のような例でよく説明される。
「500mlのペットボトルのペットボトルに250mlの水が入っている」。これは「ファクト」。それをプラスの「意味合い」で表すなら「まだ半分も水が残っている」だ。マイナスで表せば「もう半分しかない」である。両面を考えてその状況で、プラスかマイナスのどちらかで解釈すべきかを判断することが肝要なのだ。例えば極端な例であるが、砂漠でもう少しでオアシスにたどり着くような状況であれば、同行者を励ますなら「まだ半分も水が残っている」だろう。で、打ち手は「とにかく頑張って歩こう」だ。逆のメッセージで考えてしまったら、共倒れ。このほど左様に、明確にメッセージ化すれば、正しい打ち手が考えられるのだ。
何やらBlogマーケティング通信教育のようになってきたが、ビジネススクールも金森が担当するいくつかのクラスがスタートするし、企業研修も継続している。受講者は是非とも精読いただきたい。前期で講義が終了した青学の学生諸君も講義を思い出して欲しい。
また、関心のある方がいるようであれば、今後も折に触れ、記していこうと考えている。次の機会にもお読みいただければ幸いだ。