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カナモリさんのいうとおり~ season2

カナモリさんのいうとおり~ season2

こんなにイイのにナゼ売れないの?

2009 年 2 月 24 日

Cc: Photograph by Wiedmaier
【編集部からのコメント】
プロダクトのポテンシャルは高いのに売れない!様々な要因が考えられますが、そんな時こそフレームワークを駆使して「なぜ売れないのか?」を問いかけ、改善していく作業が大事です。イノベーティブなプロダクトには想定外が付きまとうものだし、顧客と開発者の間に隙間風が吹いていることが普通ですからね。
本コラムは ブログ:Kanamori Marketing Officeの2007年9月の記事を転載しております。

「こんなにイイのにナゼ売れないの?」という思い、恐らく商品やサービスを開発した方なら一度や二度は経験されている「心の叫び」ではないだろうか。
しかし、「売れない」理由はある程度古典的なフレームワークで説明できる。

9月1日深夜、出張先のホテルでテレビをつけると、ワールドビジネスサテライトをやっていた。
慌ててメモを取ったので少々間違っているかもしれないが、「フマキラー・ベープマット」が「キンチョー・蚊取り線香」を凌駕するまでの話であった。

番組の要点をかいつまむと以下の通り。
・フマキラーは噴霧式殺虫剤ではトップシェア。
・しかし、除虫菊由来の「キンチョー・蚊取り線香」は就寝時の防虫剤として確たるポジションを築いている。
・そのポジションを逆転すべく、化合物がフマキラーで開発された。
・ポイントは蚊取り線香は6時間しか燃焼時間が持たないが、化合物は加温の工夫さえすれば8時間持つ。
・2時間の差は、蚊の主たる活動時間である、「宵の口」と「明け方」の主に明け方に効果を発揮する。燃焼型6時間では早朝の蚊の猛攻は防げない。
・技術的問題を克服し、満を持して「電気式蚊取り器」を上市したフマキラー。

・・・が、全く売れなかった。

さて、番組をご覧になっていない方は、一旦ここで考えていただきたい。
「ナゼ売れなかったのか?」

番組では、フマキラーがいかな工夫によって「売れる」しくみを作ったかを紹介していた。
答えはこうだ。

フマキラーは「蚊取り線香」は煙が立ち上ることで、幼児のいる家庭にとっては使いにくいだろうと考えたが、「無煙」「無臭」は逆に「効く気がしない」と判断されたのではないか、と分析した。

実に正解なのだ。

ここからは、古典的なフレームワークに従って解説しよう。

E..M.ロジャースの「イノベーション普及学」。
残念ながら、本書は邦訳は絶版となっており、古書もプレミアがついて非常に高価になってしまっている。
同書で述べられている、「イノベーター論」や「普及曲線(S字曲線)」はマーケティングの各種入門書にも(解釈の間違いが多々あるが)紹介されているものの、「イノベーション普及速度」という理論が記されている例は少ない。

「イノベーション普及速度」とは以下の5つの要件を指す。

1.相対優位性…今まで使っていたものと比べ、いかに優れているかが分かりやすいこと。

2.両立性…当面は今まで使っていたものを捨てることなく、両立できること。

3.複雑性…理解できないほどの複雑性を持っていないこと。逆に当たり前に見えすぎない程度に複雑であること。そのバランス。

4.試行可能性…とりあえず、本格的な導入の前にプロトタイプやデモなどで効果を認識できること。自ら触ってみることができること。

5.観察可能性…目に見えない効果ではなく、明らかに効率が上がるもしくは質が向上するなどの効果が観察・実感できること。

従来の燃焼式蚊取り線香に比べ、「ベープマット」は安全性と、燃焼時間。煙が出ないという点において、明らかな優位性があった。
にもかかわらず、全く売れなかった。
「こんなにイイのにナゼ売れないの?」という思いでいっぱいだっただろう。

ロジャースの論で考えてみる。

1.相対優位性…「2時間長く持って、明け方の蚊の猛攻も防げます」「煙が出なく幼児がいても安心です。辛くありません」「火を使わないので安全です」。確かに、その訴求されている内容は分かるだろう。

2.両立性…「蚊取り線香」を使っている家庭は、併用することはできる。この点も問題はないだろう。

3.複雑性…「化合物を使っている」などの説明はある程度、「ほう、そうか」という感じだろう。しかし、「だから何?」とう思いも生活者には大きかっただろう。「複雑性」をきちんとアピールするのは難しく、カンタンに伝えすぎてはありがたみがない。ここで勝負をかけるのは難しそうだ。

4.試行可能性…確かに「お試し」というプロモーションはなかったのだろう。しかし、さほど高い価格設定で上市していないはずで、明らかに蚊取り線香のシェアを奪取すべく、価格設定は「ペネトレーション」つまり利益率よりも短期でのシェア獲得を目指した低価格戦略を展開したと思われる。とすると、試行的に購入はなされても、肝心の「マット」の継続購入がなかったのが問題と考えられる。

5.観察可能性…さて、最大の問題はここである。当初発売された「マット」は電気で加熱しても無臭だったという。また、使用前、使用後の形態に変化はなかった。確かに「明け方の蚊に刺されない」という効用はあったかもしれないが、実際に刺されていたとしても明確にそれが明け方のものなのかは分からない。

上記「ベープマット」のケースは、フレームワークをロジャースが発表した前なので、フマキラーはこれに則ったわけではないが、見事な解決策が番組で紹介された。

解決策は以下の通り。

・本来無臭のマットに、加温した際に発するような臭いをつけた。

・マットに青い色をつけ、使用後にはそれが白くなるようにした。(蚊取り線香の燃えかすをイメージか?)

つまり、「観察可能性」に最大の問題があるとフマキラーは見抜き、「効いていると思えるように臭いをつける」「使った結果(落ちている蚊の姿)はマットが頑張った成果だと認識できるよう、使用後のマットが白く燃え尽きたようにする」という改良を加えたのだ。

今回ご紹介したワールドビジネスサテライトが取り上げた、「フマキラー・ベープマット」の事例は上記の通り、「観察可能性」に問題があり、その部分を克服することで、「線香」から「電気式マット」へというイノベーションに成功したわけである。
しかし、我々のビジネスにおいて、「こんなにイイのにナゼ売れないの?」というケースは多々あるだろう。

前述の通り、E..M.ロジャースの「イノベーション普及学」の正しい解釈は少ない。
また、「イノベーション普及速度」というフレームワークは忘れられて久しいのではないだろうか。

自らの製品・サービスの普及に疑問符が点灯した時、是非とも思い出し、活用して欲しいと思う。

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