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カナモリさんのいうとおり~

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トヨタiQはマス広告離れを加速するのか?

2009 年 1 月 14 日

【編集部からのコメント】
トヨタ『iQ』は日本カー・オブ・ザ・イヤーに圧勝し、セールスも販売目標を大幅に上回り好調な模様。有力車情報誌に「最も意義深い小型車」と評されるなど暗いニュースの多い自動車業界で目立っていますね。マーケティング的にも、とっても意義深い一台になりそうですね。

Cc: Photograph by realname

発売前予約4,000台。それに貢献したのは従来型のマス広告ではない。ネットプロモーションが中心だという。

「2008-2009日本・カー・オブ・ザイヤー受賞」。11月20日の日経新聞朝刊にトヨタiQのカラー全面広告が掲載された。紙面を目にした時、内容よりもこの車種がマス広告に登場するのは珍しいなと率直に思った。

iQはトヨタが技術の粋を凝らして開発した世界戦略車であり、低迷する国内販売状況を打開する起爆剤としても期待されている車種である。
<トヨタiQ商品概要公式ページ> http://toyota.jp/iq/index.html

普通車1台のスペースに2台が駐車できるほどのコンパクトなボディー。全長が3メートル弱と軽自動車の規格より短いのに大人が4人乗れる。それを実現するために投入された技術はイノベーションのカタマリである。
しかし、iQに驚かされるのは技術だけではない。マーケティング手法も従来とは全く異なる。その展開は以下のアサヒコムの記事に詳しい。

<トヨタ超小型車「iQ」 ネットPRで予約4千台超>
http://www.asahi.com/car/news/NGY200811200016.html

YouTubeにトヨタ自らが動画をアップしたり、試乗会体験者のBlogに公式ページからリンクを張ったりと、かなり細かなネットプロモーションを展開した。そして、<新車発表から発売まで1カ月以上あけ、通常は発売後に始める、ネットを窓口にした販売店紹介を事前に実施。事前注文だけで、月間販売目標(2500台)を大きく上回った>という。

自動車専門誌などでは取り上げられていたものの、発売2ヶ月前から試乗会まで開催しているのに、iQはマス広告にはほとんど登場していなかった。つまり、従来の車と全く異なる広告戦略を取っているのではないかと考えられるのだ。

ネットプロモーションだけではない、トヨタとしては異例ともいえるゲリラマーケティングも先月展開し、大きな話題を喚起した。もちろん、その様子もYouTubeにアップされている。
<2008年10月20日~26日に、東京銀座ソニービルで行われた驚愕の空中ダンスパ フォーマンス。地上高30mの垂直のストリートを舞台に、人が歩く、踊る。>
http://jp.youtube.com/watch?v=sPrcNVtBwpo

こうした先鋭的な一連の展開は、「イノベーターの取り込み」という目的であることが推測できる。
iQが技術の粋を凝らした画期的なコンパクトカーであることは間違いない。しかし、その価格は140万円~160万円と決して安くはない。単純にコンパクトな車を求めるのであれば、軽自動車や、通常の排気量1リッタークラスの小型車を選択するだろう。
しかし、価格を超えても、この車に新しい何かの価値を感じて購入するイノベーター層も確かに存在したのだ。それが事前予約4,000台という実績につながっている。ネットプロモーションにゲリラマーケティングという展開が奏功したのだ。

しかし、革新的な技術や製品の普及には、「イノベーター」に続く、「アーリーアダプター」の取り込みが欠かせないと、E.M.ロジャースが「イノベーション普及学」に記している。
iQの次なる課題もまさにそこにあるのだろう。
では、アーリーアダプター層にiQを訴求していくとしたら、今度はマス広告を用いるのだろうか。筆者はそうは思わない。アーリーアダプターはイノベーターよりもその技術や製品の特性をじっくりと吟味、評価して採用に至るという特徴を持っている。故に、現在の路線で、ネットを中心とした訴求やクチコミ促進でじっくりとiQの魅力を浸透させていく手段の方が有効ではないかと考えるからだ。

アーリーアダプターを取り込んだら、次の「アーリーマジョリティー」は比較的容易に獲得できるとされている。つまり、アーリーマジョリティーは、革新的な技術や製品をきちんと吟味、評価するアーリーアダプターの行動を見て、安心して採用に踏み切るのである。
そのあたりになると、マス広告での盛り上げも始まるであろうが、その段階では市場での評価がはっきりしているため、あまり大量の投下は必要ないはずだ。つまり、結果としてマス広告の総投下量は極めて小ささな結果となると予測できるのである。

発売前に、車のシルエットを「チラ見せ」するティザー(じらし)広告を展開し、発売日から一気にマス広告の攻勢をかけ、さらに週末のディーラーでの試乗会告知も展開する。
そんな、旧来の広告手法をiQは過去のものにしてしまったのかもしれない。

トヨタは今年の8月29日に北米市場の低迷を受け、マス広告費の3割削減を発表している。
<トヨタ、マスメディア広告費3割カット=自動車業界、一段の経費圧縮>
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200808/2008082900666
サブプライムショック以前の決定なので、さらに削減幅は増えるかもしれない。
そして、それをiQの成功がさらに加速させることは間違いないと思われるのだ。

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