小売業の値下げラッシュは消費者にとっては嬉しい限りだが、企業にとってはたまったもんではないですよね。でもこんな状況では値下げしないと売れない・・・。まさにディレンマですね。ではどうするか?安易な値下げに走らず戦略的に価格を考えていきましょう。安易な値下げは企業にとって命取りになりますからね。
景気失速に追い打ちをかけるモノの値上げラッシュ。しかし、逆張りの戦略で勝負を賭ける企業もいくつか現れてきた。その効果の程を考えてみたい。
先週、大きな話題になったのが「西友」の「比較値下げ戦略」だ。
<西友:チラシ見て「他社より高ければ値引き」 4日から>
http://mainichi.jp/select/biz/news/20081204k0000m020035000c.html
<西友は3日、他社のチラシに掲載された特売価格が西友よりも安い場合に販売価格を引き下げる「他社チラシ価格照合」制度を全387店で4日に始めると発表した>。
家電量販店などではこれまでにも行われてきた手法であるが、スーパーでは初の施策だという。
西友は大手スーパーの中でもプライベートブランド(PB)商品の比率が10%程度と低く、他店と比較しやすいナショナルブランドが多いからこそ、「いつでも地域で一番安い店」という「エブリデー・ロープライス(EDLP)」をアピールできる戦略に出たのだろう。
正直、地域のスーパー、特に地元の中小零細はたまったものではない。何といっても、西友は米ウォールマートの子会社である。その調達力が遺憾なく発揮されることになるだろう。
しかし、この戦略も万全ではないように思う。チラシをつぶさにチェックし、一円でも安い商品を探し、複数の店を渡り歩いて買い物をする客。いわゆる「チェリー・ピッカー」を呼び込むことは間違いない。さらに、どの商品でも必ず安いのであれば、一般の客でも取り込めるだろう。しかし、同じ価格だったらどうか。チラシと比較して、意外と安くなる商品が発見できなかったら、結局は馴染みのスーパーに戻っていくのではないだろうか。
また、混んだレジで店員(チェッカー)にチラシを提示し、値引き要求をするのもなかなか勇気がいるのではないだろうか。実際に、昨夕、西友に行き30分ほどレジを見ていたが、値引き要求をしている客は発見できなかった。
意欲的な取り組みであるが、効果を発揮するかはまだ微妙な気がする。
直接的な値下げではないが、実質的に値下げを行う手法について考えてみよう。
いくつか同時に商品を購入すると、一つが無料になるというしかけがある。例えば2つで1つ分の価格で購入できる「Buy One, Get One Free」などという手法だ。
これにはいくつかの狙いで実施される場合があり、一つは低関与度商品をまとめ買いさせる効果だ。半額にしたのでは、なくなったら他社商品を購入してしまう。しかし、2つ買わせ、使用しているうちにその商品に慣れさせて、次回の指名買いを狙うのだ。また、一旦値下げしてしまうと、値段を元に戻すのは容易ではない。しかし、一つが実質的にタダになるとはいえ、価格はそのままに据え置いている点もメリットだ。キャンペーンとして、一つ無料を終わりにしても、価格は元のままということである。
この「Buy One, Get One Free」はBOGOと略してマクドナルドが以前、よく行っていた。
チキンナゲットを一箱買うと、もう一箱無料というしくみである。ナゲットを一人で二箱平らげる猛者もいるが、これは二人以上の客を狙ったトライアル促進である。ナゲットをよく食べる客が、もう一箱を手に入れて、人に勧めることを狙っているのだ。実質的な半額値引きであるが、単純な値引きによるトライアル促進より遙かに効果が高いだろう。
吉野家も実質値引きとも取れるキャンペーンを展開している。
<吉野家 師走の「くいてえー!」祭り 3杯食べたら1杯無料>
http://www.yoshinoya.com/shop/campaign/index.html
牛丼1杯食べる事にチケットを1枚もらえ、3枚たまると次回の1杯が無料になるとのこと。
「同時に3杯食べればもう1杯無料」はさすがにムリ。なので、3杯食べれば、その次が無料になるというしかけだ。
目的は何だろうか。2008年9月末の国内店舗数においてゼンショーの運営する牛丼チェーン店「すき家」が1,087店となり、吉野家は1,077店を抜き去った。「店舗数だけの話!」と吉野家ファンの声もあるが、チェーン展開において店舗数は一つのチカラの象徴だ。店舗数において劣後すれば、強固な吉野家ファンでなければ、目の前に「すき家」あれば、「まぁ、こっちでもいいか」と思ってしまうだろう。
「くいてー!」は結局、4杯の牛丼を食べることになる。ファンのロイヤルティーをより強固にし、浮気をさせないための施策であることは明らかであり、単なる実質値引きではないと解釈できる。
この経済的な逆風かにおいて、値下げは消費者に大きなインパクトを与える。しかし、そのインパクトを受けるターゲットはどのような人なのか。それはその人にとって、どのように魅力的に映るのか。
価格はマーケティングミックス(4P)の一要素だ。しかし、4Pの前に、ターゲットとそのターゲットにどのように魅力を打ち出すかというポジショニングを考えることは欠かせない。値下げ戦略もその部分の設計がキモなのである。