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ネットとメディア

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クロスメディアとソーシャルメディア・フォビア(ソーシャルメディア恐怖症)

2010 年 12 月 31 日

2010年はソーシャルメディアの年でしたね。

 Twitterで始まってFacebookで終わるって感じ。フェースブック創業者のマック・ザッカーバーグは米タイム誌の「今年の人」に選ばれたし、フェースブック創業のエピソードを映画化した「ソーシャルネットワーク」が新年早々日本でも公開されるし。

 ・・・ということでソーシャルメディアに関しての話題を2つ。

 最初は、クロスメディアについて。

 最近、某所で、クロスメディアについて講演することになって、「えっ、クロスメディアって何?」とあわてて調べてみたら、これが、よくわからない。複数のメディアを活用する販促活動なんて、昔からあったし・・・。それに、そういった意味で使うなら、クロスメディアというよりはクロスチャネルという言葉のほうが、英語圏では一般的な感じです。

 日本の某広告代理店は、複数のメディアのなかにソーシャルメディアをいれてクチコミを喚起するような販促活動の場合はとくに、クロスメディアという言葉を使っている(ようにみえる)。いずれにしても、言葉だけが先走りして中身が明確になっていないようなので、いろいろ調べて、次のような性格づけを(勝手に)してみました。

 まず、第一に、クロスメディアが注目されるようになったのは、複数のメディア(チャネル)を使用しなくてはやっていけないマーケティング環境になってきたからだ。(いまは、もう、メディアとチャネルの区別はなくなってしまいました)。

1. メディアの増殖・・・・・新しいデジタルメディアが続々と登場。ブログ、ツイッター、そして検索エンジンまでメディア(チャネル)に数えられるようになった。ところが、これだけ多くのメディア(チャネル)があるというのに、そのなかで販売チャネルは2つだけ。サイト(ウェブサイトとかケータイサイト)と店舗だけ。電話も販売チャネルといえないことはないが(TVショッピングでは大半が電話で注文をとる)、電話は他のメディアの補助媒体としてつかわれているだけだから、厳密な意味では、販売チャネルには含まないことにする。よって、メディアの数がどれだけ増えようとも、どのメディアも、サイトと店舗の二大販売チャネルに客を誘導していくための誘導媒体だということになる。
2. 客はどのタッチポイントで接触してくるかわからない・・・・・客は、場所と時間とそのときの好みによって、どのメディアにアクセスしてくるかわからない。どのメディアを接点(タッチポイント)としてこようとも、その客をメディアから次のメディアへと誘導して、コスト効率よく二大販売チャネルへと誘導しなくてはいけない。
3. デジタルメディアは(eメールを除いて)受動的媒体、つまり、客がアクセスしてくるのを辛抱強く待つ受け身の媒体・・・・・ということは、企業は、どこかで、自ら客に積極的にアクセスする能動的媒体を使わなくてはいけないということだ。必然的に、受動的媒体と能動的媒体(TVのようなマス媒体、ダイレクトメール、eメール)を組み合わせる必要が出てくる。

 こういった事情により、複数のメディアを組み合わせる必要性が、以前よりも、ずっと増しているわけだ。

 企業は、客をメディアからメディアに移行させる過程において、買うという行動への動機づけがより強くなるように仕向けなくてはいけない。そのために、コミュニケーション内容(メッセージの次元)は、移行が進むとともに、客にとってよりパーソナルでより関連性(レラバンス)の高いものになリ、結果、より説得力の高いものに変わっていかなくてはいけない。

 そのためには、メディアごとに、より関連性高いデータが獲得できる仕組みづくりがなくてはいけない。

 そして、すべてのプロセスが、シングルメディアで実行したときに比べて、同じ効果をより低いコストで、あるいは同じコストでより高い効果を獲得できるものでなくてはいけない。つまり、より高いROIを達成しなくてはいけない。

 これがクロスメディア(クロスチャネル)だ。

 具体的な例として(B2Bの例となるが)、静岡のアルミ加工製品を製造するメーカーを紹介しよう(日経ネットマーケティング参照)。この会社は2006年に重要書類をいれるアルミケースをつくり、ターゲットだと考えられた金融サービス企業を中心にダイレクトメールで販促した。が、期待した結果が得られない。そこで、ウェブサイトの重要書類ケースのページにアクセスしてくる客をアクセス解析サービスを利用して調べてみた。結果、当初考えていた金融サービスではなく通信・運輸系企業が、個人情報保護に関連するキーワードで検索してサイトを訪問していたことがわかった。そこで、運輸・通信サービス会社200社余りに、「個人情報保護法」を見出しにつかったダイレクトメールを出したところ、それまで、0.5%の問い合わせ率だったものが10倍の5%になった。

 この例では、検索エンジン、サイト、DMとメディアが移行する仮定において、データが付加され、より関連性高いメッセージ内容に変更して、より説得力あるコミュニケーションが可能になった。

 クロスメディア・マーケティングを企画するときには、各メディアの特徴をいかしながら、客をメディアからメディアへと移行させるような筋書き(ストーリー)がなくてはいけない。

 そういった意味で紹介したいアメリカの自動車保険のクロスメディア・マーケティングがある。

 自動車保険会社のサイトにアクセスして、いくつかの質問に答えて見積もりを出してもらう。もちろん、その場で(サイト上で)見積もりはすぐに出るのだが、あえて、5分後にeメールで見積もりをお送りします・・・とする。なぜなら、サイトで見積もりを出して、客がその場で決められない場合、サイトのそのページは消えてしまう。客は、「他の会社の見積もりもチェックして、安かったら、また、このサイトに戻ってくればよい」なんて考えているかもしれないが、客の記憶などあてにならない。eメールなら、削除されても消えてしまうわけではない。削除リストをクリックして見ることができる。

 見積もりをDMで送ることもできるが数日かかってしまう。そのときには、もう、自動車保険への興味は失われているかもしれない。つまり、この場合、見積もりを提案するのは、サイトでもダメだし、DMでもダメ。eメールがもっとも適切なメディアだ。5分後に受け取ったeメールは、サイトと同じシンボルカラーとシンボル・イラストが目立つ非常にシンプルなもの。見積もりの数字と、あとは、申し込みはサイトへ、あるいは、電話で・・・というクリックボタンがついているだけ。企業としては、この場合、どちらかというと電話してくれたほうがいい。なぜなら、人間と話すことで客の信頼感や安心感が増し、また、疑問点を質問をしたうえで申し込みもできる。だから、注文確率が高くなる。

 次に、ソーシャルメディアを含めたクロスメディア・マーケティングを考えてみる。

 ソーシャルメディアが使われるとクチコミ効果・・・ということになって、、その効果は、ブログでの書き込み件数が何件、ツイッターでツイートされたのが何件といった数値で表されることがほとんどだ。こういった数値で販促の是非を判断する考え方には、ダイレクトマーケティングを経験した人間としてはあまり賛成できない。

 効果は、あくまで、注文や申し込み件数で判断するべき(そうするように努力すべき)。

 販促効果を書き込み内容や件数で判断するやり方は、マス広告の効果を算出する昔のやり方と基本的に変わらない。ブランドの認知度やイメージがどれだけ上がったかを、到達数とかアンケート調査などで出すのと、50歩100歩とまではいわないが、20歩100歩の違いだけで、基本的な考え方は同じだと思う。調査費用が要らないぶん安いかもしないが、かゆいところに手が届かない、どこかじれったい気分をともなう。

 最近アメリカではソーシャルメディアもROI化しようという傾向が高くなっているらしい。たとえば、500社を対象にした2009年の調査(StrongMail)によると、ソーシャルメディア・マーケティングを担当しているのはダイレクトマーケティング部門であるという答えが36%で最も多く、ついで、29%が複数の部門が担当、9%がPR部門が担当だと答えている。

 ソーシャルメディアのROI化には、それなりに、複雑なステップをふまなくてはいけない。

 たとえば、飛行機内でのネット接続サービスを提供している会社が、既存客に知人紹介キャンペーンのeメールを送った。知人一人を紹介するとサービスが一回分無料になる。そして、紹介された知人もサービスを申し込むと一回分無料になる。紹介方法は簡単で、eメールにある紹介ボタンを押すだけでよい。そうすると、既存個客専用のランディングページに飛ぶ。そのランディングページにツイッターとかフェースブックのシェアボタンがあるからそれをクリックして、知人を紹介する。紹介された知人には、「あなたの友達がお得情報をあなたに紹介したいそうです」とかいうメールが届く。で、そのリンクアドレスをクリックすると、知人専用のランディングページにとび、そこで申し込む・・・・・・結果、どの既存客が何名紹介し、そのうちの誰が実際に申し込んだかがわかる。よって、誰が一番のインフルエンサー(影響者)かもわかるし、ROIも明確になる。

 ちょっとややこしい。

 ソーシャルメディアのROI化は手間がかかる。

 だが、こういった仕掛けで、ソーシャルメディアのクチコミのROIを算出する経験をしてみると、ソーシャルメディアを恐がることもなくなるだろう。

 最近思うのだが、売り手企業はソーシャルメディアを・・・・ということはソーシャルメディアを使いこなしている消費者を恐がっている。ソーシャルメディア恐怖症と訳してもいいけど、ソーシャルメディア・フォビアのほうが、感覚的にぴったりだ。

 消費者を恐がってマーケティングができるのだろうか?

 自分たちが企画したストーリーと異なるクチコミ展開をしてしまう? では、マス媒体で広告していたとき、自分たちの期待どおりに消費者が反応してくれて成功した広告がどれだけあっただろうか? 

 伝言ゲームで、「昨日、うちの犬が子犬を4匹生んだ。そのうち3匹がオスで、メスだけはもらい手が見つかった」と言うメッセージを順番に伝えていったとして、10人を経た時点で、すでに、最初の文章とは異なる内容になっていることだろう。

 炎上がこわい? だが、そのために、「クチコミ@係長」のような便利で手軽に使える分析ツールがある。おかしな兆候が出てきた時点で、早期に素早く対処できるはずだ。

 それまで消費者と直接対話したことがないメーカーが通信販売を始めたとき、コールセンターにかかってくる苦情に担当者が大きく動揺するのをみて、「ああ、消費者慣れしていないんだ」と思ったことがある。統計数字として、苦情5%と見ているときは、何事も感じなくても、具体的な言葉をじかに耳にすると、まるで、一人の人間の苦情が、顧客全体からの苦情であるかのように受け取る。これが10人くらいになると、注文した全体の割合いからいえばわずか0.01%でも、製品を改良しなくてはいけない・・・と言い始める。

 ソーシャルメディアでも同じような現象がみられる。ブログやツイッターで批判や悪口が書き込まれると、数がどんなに少なくても動揺する。人間は具体的な内容を見ると、統計的数字での判断ができなくなる。もちろん、こういった数字の推移をみて、早めに対処するタイミングを見逃さないことは重要だ。だが、悪意ある書き込みは必ずある。それが、大きくなることもある。そのとき、自分たちが提供しているサービスや商品が真正なものであるのなら、法的手段をとる覚悟で、断固たる態度で対処していく必要もある。とはいえ、大きな問題に発展した例をみると、企業の対応や販売している商品やサービスに誤りがあることが多い。

 いずれにしても、一番いけないのは、消費者を恐れること。そういった気持ちは、消費者に伝わる。そして、そういった、後ろめたそうな自信なさそうな態度や言動。それ自体が、うわさを広める結果となる。 1)つねにモニターをして、2)早めに危険な兆候を発見し、3)それに対処する基準がきちんとできているのなら(そして、一番大事なことだが、販売している商品やサービスにやましいことが何もないのなら)、ソーシャルメディアとそれを利用する消費者を恐れることは、害あっても益はない。

参考文献: 1.「アクセス解析で製品への企業ニーズを把握」 日経ネットマーケティング2008.11、 2.Ryan Deutch, Social Media as a Direct Marketing Channel,destinationCRM.com

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