不況時のマーケティングにウルトラCなど存在するのでしょうか?結局は自社の市場での地位に応じた戦略を愚直に展開することこそ王道ではないでしょうか。慌てて奇策に走ったり、他社と一緒に低価格、広告費削減などコスト削減に勤しんでもオウンゴールするだけでしょう。厳しい環境こそ定石を知り、自社なりの戦い方をするべきではないでしょうか。
本コラムは ブログ:Kanamori Marketing Officeの2007年9月の記事を転載しております。
色で差別化できてる!?
「自社のポジションはいかなものか?」・・・「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」というが、敵を知る以前に自社のポジションを明確にして戦略立案の基礎とすることは重要だ。しかし、一個人でも「己の真のポジション」を把握することは難しいもの。
ついつい、背伸びしてしまう。自社のポジジョンに応じた正しい戦い方とは?
今回はその前編。
「己の真のポジションを把握すること」は企業戦略の立案には欠かせない。
戦略論の大家、マイケル・ポーター先生も「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」という、『戦略の三類型』を提唱した。
一方、マーケティングの大家、フィリップ・コトラー先生は「市場ポジションに応じた戦い方」を四類型にまとめた。
今回はこちらを元に考えてみよう。
四つのポジションとは「リーダー」「チャレンジャー」「ニッチャー」「フォロアー」に分類される。
各々の特徴は、「リーダー」はとにもかくにも「チャンピオン」であり、語弊を恐れずにあえて例えれば、その戦略は「強者故の“やりたい放題”」である。
特徴的な「打ち手(施策)」は第一に「需要創造」である。
例えば、ある程度の年齢を経た男性に多い“ED”。
「疾病啓発広告」といわれる手法は「こんな状態(具体的な状態は少々表記しづらいが)のあなたはEDかもしれません」と訴求する。
それなりの年齢の男性なら、思い当たる節が多い人も多いだろう。
そして「一度病院で相談を」となる。
そして、そこで「病状あり」と診断されると、その疾病に効く唯一、もしくはシェア・ナンバーワンの製薬会社の薬が処方される。
つまり、「需要創造」。市場を創り出していくのである。
さらに、リーダーの「戦略の定石」としてあげられるのが「同質化」だ。
子供っぽい、平たい言葉で言うなら「真似っこ」。
リーダー以外の企業がヒット商品を開発したら、余りある技術・開発力を総動員して同種の製品を上市。流通させて一気にシェアを奪う。
有名な例がある。
飲料の世界では門外漢であった某製薬メーカーの担当者が、ドクターが点滴に用いる「輸液」でのどの渇きを癒している姿を見た。そして、「あれ?これって飲料としてちょっと味などを調整すれば売れるんじゃないの?」と、上市した。
その飲料を真似て、さらに「スポーツ時の水分補給に」と売り出し、一気にシェアを取った。
そんな、ある意味、強大な力を持って「やりたい放題」をする、「リーダー」にいかに戦いを挑むのか。
まずは、「リーダー」に対して戦いを挑めるだけの力のある「チャレンジャー」の戦い方だ。
「戦略の定石」は何といっても「差別化」である。
差別化は、中途半端が最もよくない。
一般論ではあるが、日本企業は差別化、特に特定の相手に対する差別化がうまくないと言われる。
「比較広告」などは、生活者の反感を買うため自粛する傾向が多いとされている。
しかし、やるなら敢えて「徹底して」やればいい。
再び飲料業界の話。
リーダーである「コカ・コーラ」対チャレンジャー「ペプシ・コーラ」。
日本でもコマーシャル・フィルムでは放映された「ペプシ・チャレンジ」。
どちらが製品か明らかにされていないコップを街行く人に両方飲ませ、美味しいと思う方を指ささせる。そして「うゎー、ペプシだッたんだぁ〜」と被験者が言う。
余談であるが、米国で生まれたこのキャンペーンの発案者はジョン・スカーリー氏。その後アップルコンピュータのCEOに転身した人だ。
もう一つ。かつて大人気を博したラッパー、M.C.ハマーを起用した比較広告。
ステージ登場前にハマーが“赤い缶”のコークを飲んでしまい、ナゼかメロウなナンバー「フィーリング」を歌い始める。
そこで、舞台下から“青い缶”を渡す黒人少年。そして、ハマーは元気いっぱいにラップを奏でダンスを舞い踊る。
・・・ここまでの露骨な比較広告は日本ではなかなかやらない。やればいいのに。
「ペプシ・キューカンバー」。飲んだ?
キューカンバーとはキュウリのこと。
コーラにフレーバーを加えるのは、チャレンジャーたるペプシのお家芸である。
レモンフレーバーを添加してヒットさせた例は有名だ。
が、“キュウリ”だ。飲んでみた。何とも言えない味。
強いていうなら、キュウリというより、欲張ってスイカを赤い部分を超して、白い部分まで食べた時のような味だ。
しかし、この味、意外と受けたのだ。広告などほとんどなしでインターネットを中心にかなり話題になり、なかなかのヒットになったという。
こんな商品、リーダーである「コカ・コーラ」が手を出しただろうか。
スイカの白い部分の味がするコーラ。かなり微妙な商品であることは間違いない。
が、ペプシはなぜ、こんな商品を上市したのか。
答えは「チャレンジャー」だからだろう。
チャレンジャーは常に「俺たちは違うんだ!」と言い続けることでリーダーに戦いを挑み、生き抜いていく。
リーダーと同じことをやっていたのでは「同質化」によってその存在を掻き消されてしまう。
「違うんだ!」と言い続ける。
しかも、その言い方はハンパではいけない。ハンパでは存在が掻き消されてしまう。
リーダー対チャレンジャーの戦いの定石である。