Twitterはソーシャルメディアではない・・・というタイトルにしようかとも思い迷いました。というのは、ツイッターのユーザーは、じつは、それほどソーシャル(社交的・・人が互いに交わる)ではないのです。
ツイッター創立者の一人であるエヴァン・ウィルアムズ自身こう言っています・・・「ツイッターはもともとは放送媒体に近いものとして設計されました。一件のメッセージを発信すれば、それが全員に配信される。自分も自分が関心あるメッセージだけを選んで受信することができる。特定の人物や特定のメッセージにだけ返信できる機能がつくようになった(つまり、双方向性あるコミュニケーションができるようになったのは)、ツイッターに人気が出てからのことです」。
2008年から2009年にかけて利用者数が1000%以上増加(ニールセン調べ)という驚異的数字が発表されるとともに、ツイッターの利用実態があいついで調査された。そして、クチコミ媒体というイメージが強いツイッターだが、意外にも、その特徴は、「昔ながらのマス媒体的性格」にあることが明らかにされたのです。
たとえば、ハーバード大学の学生が2009年5月に無作為抽出した300,542名のユーザーの利用実態を調べたところ・・・
1. 投稿メッセージの90%以上は上位10%のヘビーユーザーが発信しているもので、これは、他のソーシャルメディアにおいて、上位10%がメッセージの30%を投稿しているのに比べると、かなり偏っている。
2. 利用者一人当たりの「生涯」における投稿数の中央値はわずか1回。ツイッター利用者の半分以上が74日ごとに1回以下しか投稿していないことになる。 *ところで、投稿する(tweet)ことを日本では「つぶやく」と訳しているのはなぜ? Tweetの本来の意味は小鳥が鳴くとかさえずること。「つぶやく」というからオタクっぽいイメージになるのでは?
いずれにしても・・・調査結果が明らかにしてくれたことは、ツイッター流行におくれまいと一応登録はしてみたが、実際には利用していないひとが多いこと。その証拠に、ニールセンの調査によると、2008年1年間において、ある月のツイッター利用者が、次ぎの月に戻ってくる率は30%以下、つまりリピート率が下がっている傾向がみられました。
ヒューレットパッカード研究所の調査結果では、他のソーシャルメディアに比べると、ツイッターは1対1の双方向コミュニケーション・ネットワークというよりは、1対多数の一方通行の発信サービスであることが、より強く浮き彫りにされました。調査した309,740名のうち、誰かをフォローするだけのひとや、反対にフォローされるだけのひとが圧倒的に多く、特定の相手とダイレクトメッセージのやりとりをする「友人」と呼べる関係は非常に少ないのです。ヒューレットパッカードの調査では、特定の人に最低2回メッセージを発信した場合に、この相手を「友人」とみなしました(つまり、メッセージを互いにやり取りしているわけでもない。通常なら友人とも呼べない関係をあえて友人と定義した)。それでも、この「友人」の数をフォローしている数で割ると平均して0.13で中央値は0.04.つまり、フォローしている人数にくらべて友人の数は1人以下で極端に低いことになるのです。
この調査結果をふまえて、ヒューレットパッカード研究所は、「ソーシャルメディアはクチコミの研究に適した媒体だと考える傾向があるようだが、少なくとも、ツイッターにおいては、二人の人間にリンクがあったとしても、必ずしも二人の間に相互作用があるわけではない」と結論づけている。
たしかに、アメリカで、ツイッターをマーケティングに利用して成功した実例を見てみると、どの企業もツイッターをマス媒体のように使っている。
たとえば、世界第2位のPCメーカーのデルと、米大手家電量販店のベストバイ。
デルは2007年にツイッターにアカウント(DellOutlet)を登録し、過去2年間で650万ドルの売上を上げ、フォロワー(デルをフォローしているユーザー)の数は60万人(2009年6月現在)で、最もフォロワーの多いアカウント上位100のひとつだ。そりゃそうだろう。デルは2週間に6~10回投稿して(投稿と訳したけれど、tweetしていること。これを「つぶやき」と訳したらおかしいよね?)、その大半がクーポン付きかセールスサイトにリンク付けされている。そして、こういったオファーの半分くらいがフォロワーだけへの特別オファーなのだ。
デルがしていることは、一方方向的に特典つきメッセージを流し、それに引き寄せられたフォロワーが反応して購買する。DMやeメールの使い方と変わらない。違うところは、たった一件のメッセージ発信で、一瞬のうちにグローバルに到達でき、リスポンスを獲得することもできる。しかも、DMに比べたら経費がかからない。
案外知らない人も多いようだが、Twitterは現在までのところ、アカウントを登録する企業から登録料を徴収したり、そのアカウントから売上をあげても1円も手数料をとっていない。実際のところ、Twitterは収入のほとんどない企業なのだ。ベンチャー投資家たちから集めた5500万ドルのうちまだ使われていない数百万ドルをよりどころに存続している会社なのだ。どういったビジネスモデルを採用して売上を獲得するのか・・・「まだ考慮中」だと創業者たちは言っている。そのうち、デルのような販売活動に従事している企業から売上の何%かを徴集するようになるだろう・・と推測されているが・・・。
他のソーシャルメディアであるフェースブックとかミクシーもツイッターに類似したサービスを登録者に提供するようになっている。だが、企業が料金その他の制約なしに販売活動に従事できるのは、ツイッターだけ。どうりで人気が集中するはずだ。
ベストバイは顧客サービスにツイッターを利用している。2009年6月からTVCMで、質問とか苦情とかあったらツイッターのアカウントに返信してくれと宣伝し、4ヶ月間で2万件の質問に答えている。こういったフォロワーのメッセージに答えているのはベストバイの2500人余の店員たち。オンライン顧客サービスを、店舗店員が時間があるときに提供していることになる。
デルでは100人の従業員が投稿(tweet)に従事しているという。通常の仕事時間の20%を投稿に使うとして、100人の従業員の給料合計の20%、つまり、1年間に50万ドルを投稿作業に費やしていることになる。よって、投資の見返りは1300%になると計算したジャーナリストもいる。ベストバイでも、ツイッターを顧客サービスに利用することにより、コールセンターの人員削減にどのくらい貢献しているのか計算したうえでやっているのだろう。
ツイッターだけでなく、他のソーシャルメディアでも、1)実際に利用しているのは少数派。つまり、ソーシャルメディアは思っていたほどソーシャルではないということだ。よって、一時話題になったようなクチコミマーケティングへの利用を夢想するよりは、リアルタイムに大規模ターゲットに広告メッセージを送ってリスポンスを獲得したり、顧客へのサービスを提供する場だとわりきったほうがよい、2)デルやベストバイの例からもわかるように、常にアップデートしてオンライン上で生存していくためには、人件費がかかる。非常に労働集約的なサービスだ。従業員の手のあいたときに投稿(tweet)してもらうというけれども、実際問題として、従業員の時間の管理や動機付けなどむつかしい問題がある・・・といった意見がよく聞かれるようになってきている。
最後に、ソーシャルメディアにおける「友人」に関して、ちょっと面白いエピソードを・・・。
日本でもオックスフォード英語辞典で有名なオックスフォード大学出版局が、2009年の「今年の言葉」としてunfriendを選んだ。そして、 Unfriendは動詞として使われ、「フェースブックのようなソーシャルネットワーキングサイトにおいて、誰かを『友人』から削除すること」と定義した。
Unfriendという言葉はdefriendとともに、ソーシャルメディア利用者の間では2004年ごろからすでに使われていました。が、この言葉を有名にしたは、米バーガーキングです。2009年1月に大きなサイズが売り物のワッパー・ハンバーガーの販促に「ワッパーの生け贄(犠牲)」キャンペーンを始めた。フェースブック上での友人のうち10人との関係を絶てば、ワッパー1個が無料で食べられるという、前代未聞のキャンペーン。開始して10日間で234000人の犠牲者リストが集まったところで(ということは、23400人がワッパー無料クーポンをもらうために友人たちを犠牲にしたわけだ)、フェースブックの異議申し立てで、あえなく終了。
クチコミを拡大したかったのだろう。バーガーキングは、友人リストから削除された元友人たちにまで、「あなたは誰々さんの友人リストから削除されました」と通知を送ったのだ。「ハンバーガー1個、正確には10分の1個より価値無しと仕分けされた」元友人たちが猛然と抗議し、フェースブックはプライバシーの侵害にあたるとしてキャンペーンを即時中止するように要請した。
このキャンペーンは、ソーシャルメディア上の友人とは何か? 友人との関係を絶つ(unfriend)ときの正しいマナーとか何か? やりとりなどまったくない相手で、自分だって友人などとは思ってもいない相手なのに、unfriendされると、自分でも驚くくらい心が傷つくものだ・・とか様々な議論を誘発しました。
このエピソードですぐに思い浮かんだのが、映画「二十世紀少年」(私は漫画は読んでません。映画ヴァージョンしか知りません)。「二十世紀少年」では、「ともだち」に絶好されることは、ともだちの一味に殺されること。日本の中高生などでは、友人リストから削除されたことで自殺するケースもある。オンライン上でも、絶好される(unfriend)ことは、非常に感情的な経験だということが明らかになった。バーガーキングは、「数百人の友人リストを整理する良いチャンスを提供しようとしただけだ」とキャンペーンの正当化をしながらも、人間関係はたとえデジタルな関係でもデリケートなものだといまさらながら驚いたようだ。
前述したヒューレットパッカード研究所の調査によると、ツイッターでどれだけフォロウィーが増えても、友人の数はある一定のレベルで止まってしまう。人類学者のロビン・ダンバーの主張する150人のレベルを超えることはないようなのだ(150人の制約についての詳細は、12月に発売した拙著「売り方は類人猿が知っている」を読んでください・・・と、ここでさりげなく新刊書の宣伝をする。えっ? 『さりげなく』じゃなくて『あからさま』だって?)。
言葉が生まれることによって、友人・知人の数は150人に増えた。そして、ソーシャルメディアのような「ソーシャル・ソフトウェア」が登場したことによって、ロビン・ダンバーの150人の制約を越えることができるのではないか? という期待もあった。だが、いまのところは、そうはいっていないようだ。テクノロジーは発達しても、人間の脳がそれに適応していないということらしい。
実に面白い~(「ガリレオ」の福山雅治ふうに独りごちてみる)
突然ですが、2010年です。新しい年が明けました。
不確実な時代を「強い心」で乗り越えましょう!
皆様の2010年が素晴らしい年になりますように!!!
参考文献: 1.Douglas Quenqua, Friends, Until I delete you, The New York Times 1/29/09, 2. Clare Baldwin, Twitter helps Dell rake in sales, Reuters 6/12/ 09, 3. Gne Markes, Beware Social Media Marketing Myths, BusinessWeek 5/26/09, 4. Bill Heil and Mikolai Piskorski, New Twitter Research: Men Follow Men and Nobody Tweets, The Conversation 6/1/09, 5. Saul Hansell, Best Buy Plans a Very Twittery Christmas, The New York Times 10/1/09, 6.Kit Eaton, Twitter Really Works: Makes $6.5 Million in Sales for Dell, Fast Company 12/8/09, 7.Bernardo A. Huberman, et al., Social networks that matter: Twitter under the microscope, First Monday, vol 14, no.1-5 January 2009
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Twitter(ツイッター)はクチコミ媒体ではない | ビズハック!