「自分で考える」「人に考えさせる」指導者になるには訓練が必要です。後は忍耐も必要・・・。「やってみせ 言って聞かせて させて見せほめてやらねば人は動かじ。」山本五十六の言葉はコーチングや部下指導の研修では鉄板のネタです。それだけできない人が多いということですよね。忙しい時など新人の仕事ぶりにイライラして「もう俺がやるよ!」といって後輩に頼んだ仕事を自分で片づけてしった経験ありますね。
本コラムは ブログ:Kanamori Marketing Officeの2008年5月の記事を転載しております
売り手市場の中、鉦や太鼓で企業が採用した今年の新入社員。財団法人社会生産性本部が「カーリング型」と<磨けば光るとばかりに、育成の方向を定め、そっと背中を押し、ブラシでこすりつつ>と企業が手塩にかける様を評した。その磨きの第一歩である新人研修も連休前で一息。連休明けに現場に配属されて行く人も多いだろう。しかし、少し心配なのはその先輩たちなのだ。
「就職氷河期」は1994年の流行語大賞ともなったが、バブル崩壊後、企業が新規採用を抑制し、1993年から2004年に就職する新卒が「氷河期世代」となった。非正社員としての雇用やフリーター、ニートの問題などもあるが、正社員採用された者も全く楽ではなかった。採用抑制によって企業内は慢性的な人手不足となり、過酷な労働環境が蔓延した。そのことから諸々の問題が噴出したが、ここでは教育の問題を取り上げたい。
この先の経済環境は不透明になったが、少し前までの景気が回復していたときには、各企業は一斉に教育研修に力を入れた。そこでよく目にするのが、 20代後半から30代半ばの年代を集めた研修対象のクラスだ。就職氷河期に入社した、いわゆる氷河期世代とか、ロストジェネレーションと呼ばれる年代なのだ。
多くの人材育成担当者が口にするのは、彼らは最も教育から取り残されてきた年代だということだ。慢性的な人手不足で教育を受けている暇もなかった。「習うより慣れろ」でひたすら業務に埋没させられていた世代だと。
教育を受けていないといっても、業務に必要な知識はきちんと習得している。何年も実業務をこなしてきているので仕事はできる。しかし、部下や後輩を任せるのが心許ないと人材育成担当者は口を揃える。
氷河期世代に与えられていなかった教育とは、「考えさせる教育」だ。OJTとは名ばかりの、業務にいきなり突っ込まれて、仕事にすぐに必要な知識だけを詰め込まれる。なぜ、そうしなければいけないのか。だから、どういうことなのか?問題は何なのか。Why so? So what? Why? Why?・・・深く考えるのではなく、目の前のHowやDoばかりを詰め込まれてしまっている。
彼らを対象に、自社の問題解決を考えるワークショップを開くと、問題の根本原因まで掘り下げることができないことが多い。例えば「残業が多い」という問題を挙げる。解決策として「仕事を効率化する」と答える。残業が多いのは「現象」だ。根本原因は他にある。「仕事の効率化」では具体策になっておらず、解決はできない。深く考えることを教えられていなかった弊害だろう。
そんな彼らが、先輩や上司として新入社員を迎える。ここ数年、採用数が増えてきてから、氷河期世代から不安のと困惑の声を多く聞く。新入社員とうまくコミュニケーションがとれないと。上司や会社からは、新人の育成は重要な役目だといわれ、目標管理(MBO)の項目にも掲げられている。しかし、自分自身、新入社員のころにそんな扱いは受けていなかったのにと。
もう一つよく聞くのが、「新人や若手は”指示待ち”が多くて困る」という声だ。「指示待ち社員問題」は世間でもよく聞くが、ではどんな状態なのかを聞くと、ある程度指示をしたのに、動かないというのだ。しかし、その指示の内容を聞くと、具体的になっておらず、それでは部下や後輩は動けないだろうと思われることも多い。「その指示で、図分だったら動けるか」という想像力が足りていないのだ。むろん、彼らの責任ではなく、彼らもそのように教育されてきてしまったのだ。
「カーリング競技」のように新入社員の進む先を磨き続けるのも大切だが、まずは、その先輩である中堅社員や若手管理職を何とかしなくてはいけない。
OJTとは名ばかりの教育しか施してこなかったのなら、もう一度、業務からきちんと離して、自社課題解決でもいい、ビジネスケースでもいい。徹底的に「考える」ことを習慣づける必要がある。そして、「考えること」を部下や後輩に教えさせるのだ。「教えることは学ぶこと」でもある。きちんと考えて、どうやったら理解させられるかという教え方を考えることは一番の学びになるのだから。