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NOW5 「スターバックスと経済危機との関係」理論

2009 年 5 月 6 日

 


Cc: bookish in north park / flickr

スターバックスの店舗数が多い国ほど、今回の「未曾有の経済危機」の被害が大きい・・・という「スタバと経済危機との関係」理論がある。

 アメリカの不動産市場バブルとニューヨークを中心とする金融市場バブルとがペアを組んだ結果が金融危機を生んだわけだが、この二つのバブルを象徴するブランドを一つ挙げろといわれたら、それはスターバックスだそうだ。スタバ店舗は住宅地の不動産開発の後に続くようにして郊外に広まり、また、大都市のビジネス街、とくにウォールストリートのような金融センターに密集している。NYのマンハッタンだけでも200店舗あった。そして、海外のスターバックスの店舗数を調べてみると、店舗数の多い国ほど、とくに金融センターにおける店舗数が多い国ほど、経済危機の被害が大きい。たとえば、英国・・・ロンドンだけでも256店舗ある。スペインのマドリッドには48、金ピカ豪華絢爛都市のドバイには48、韓国にも253店舗ある。だが、アフリカなどは大陸全体で3店舗あるのみ。中央アメリカはゼロ。イタリアはゼロ。デンマークは2、オランダは3、スカンジナビア3国はゼロ・・・。

 だから、経済評論家のこむずかしい予測を拝聴しなくとも、経済問題が発生する国がないかどうか知りたかったら、スターバックスのホームページで各国の店舗数を検索してみるとよい・・・・というのが「スタバと経済危機の相関関係」理論だ。

 もちろん、半分というかほとんどジョークです。この理論を提案したジャーナリストは、ピューリッツァー賞を受賞したこともある著名ジャーナリストが1996年に発表した「マクドナルドと戦争と平和」理論のマネをしてみただけだ。これは、マクドナルド店舗が存在する国同士は国際紛争を解決するために戦争には至らないという理論。ビッグマックを買うことができる中流階級が一定規模存在する国は、その繁栄度やグローバル度からみて、国際紛争を平和的に解決する・・・というマジメな意味合いも含まれている。ただし、イスラエル対レバノンとかロシア対グルジアの戦闘で、この理論は見事に粉砕しました。

 前置きが長くなりましたが、そのスターバックスが今回の経済危機でアメリカ本土で苦闘している。$4のラテを毎日のように飲んでいたヘビーユーザーの数が減ったのだ。来店頻度は一ヶ月に3回かそれ以下になり、多くが自宅でオンデマンドコーヒー(「小売とメーカーのバトルシリーズ第7回」参照)を飲むか、$1でも品質のめっきりよくなったマクドナルドのプレミアムローストコーヒーを飲むようになったのだ。

 もっとも、スタバの問題は経済危機発生以前からあった。

 スタバのピークは2006年の春で、それ以降は急激に業績が落ち込んでいる。理由は店舗数を広げすぎたから。2007年2月に実質的創業者のハワード・シュルツ会長は、「スターバックス体験のコモディティ化」というタイトルのメモを幹部宛てに出した。そこには、「過去10年間に店舗数を1000店から13000店に急拡大したことがブランドの希薄化を招き・・・・手で使うエスプレッソマシンをスピード効率を上げるために自動マシンに変えたことによって、コーヒーを煎れるというショーがなくなってしまい、店頭からロマンスと舞台効果が失われた・・・・我々はスターバックス体験にかつてあった情熱や伝統を復活させるために変革を起こさなくてはいけない」と書かれていた。

 このメモが書かれた2007年には、アメリカにおける既存店の売上成長率は過去最低で株価は42%も下落した。コンシューマー・レポート誌には、フィルターコーヒーではマクドナルドのほうが味が良いという評価まで下された。2007年第三四半期決算において、スタバのCFOは「販売店件数の増加の販売効果は1%未満しがあがっていない」と語っている

 実質的創業者のハワード・シュルツは2008年1月にCEO兼会長に復帰し、アメリカで600件閉店し人員も1000人削減することを発表した。しかし、コーヒーショップの高級ブランドであるスタバは経済危機の直撃を受けやすく、9月期第四四半期において既存店の売上は8%落ち、利益は前年対比でなんと97%も減少した。それでも、シュルツは、1)価格を下げるつもりはないこと、2)ブランドを立て直すといういまの戦略を推し進めることにより、スターバックスは蘇ると宣言している。

 ブランド再生のための戦略は・・・・

1. 価格競争はしない・・・2008年1月にシアトル地域のみで、$1コーヒーとお代わり無料のテストをした。が、低価格戦略は、マクドナルドと価格競争に巻き込まれるだけで、ブランドイメージを回復不可能なレベルに低下させることになると判断した。
2. 2007年11月に、会社創立以来初めてTVコマーシャルを全国放送した。2008年度に2億ドルのコスト削減を実行したにもかかわらず、ブランドイメージを向上するためのTVコマーシャルは継続している。
3. 優良顧客を優遇するためにカードを発行。4月には無料のレギュラーカード発行した。カード会員になれば、ブレンドコーヒーのお代わり無料といった特典がある。
4. カード利用の実態を調査したうえで、11月にはヘビーユーザーを優遇するためのゴールドカードを発行。ゴールドカードは年会費25ドルだが、会員はほとんどすべての商品を10%割引で買うことができる。つまり、一年間に250ドルの購入をすればトントンになるということだ。$4のラテなら、年62回。つまり、週に1回以上ラテを飲む客なら、25ドルの会費を払っても得になるということだ。

 シュルツが採用している戦略は、ブランド再生を目的とする場合、適切なものだ。値段を下げる誘惑に負けなかったこと、コスト削減を進めるなかでテレビコマーシャルには投資したこと、ヘビーユーザーに的をしぼったヘビーユーザーだけが価値をエンジョイできるカードを発行したこと・・・・など、メリハリのきいた戦略はなかなか採用できるものではない。

 だが、そもそも、もっとブランドを大事にしていれば、こんな事態には至らなかったのだ。なぜ、店舗数をここまで増やし続けたのか? 高級ブランドはターゲット・セグメントの規模が限られるから高級なのだ・・・という厳然たる事実を、なぜ、無視したのか?

 ・・・と、第三者が批判するのはたやすい。しかし、ブランドを所有している経営者というものは往々にしてこの間違いを犯す。オートクチュールから始まった高級洋服ブランドだったのが、ハンドバッグはまだしも、ハンカチ、エプロン、シーツ、スリッパにまで手をひろげ、かつては栄光ある高級ブランドのイメージを下げてしまった実例はたくさんある。高級料理店が店舗数をふやすことによって、どこにでもある店になってしまい、ブランド力もなくしてしまう例もたくさんある。

 自分のブランドや会社を大きくしたいという欲望を、経営者、とくにその会社やブランドを立ち上げた起業家は持っている。そもそも、そういった欲望を持っていない者が起業に成功することはまずない。大きくしたい・・・というのは売上を上げたい、お金持ちになりたいという金銭への執着では必ずしもない。自分のつくったビジネスをもっと大きくして、社会的に認められたいという「認知」「尊敬」「地位」ということに関係する感情のほうが強い。そして、こういった感情を抑えて、「一定の規模以上をターゲットとすることはブランドの希薄化を招く。だから大きくしてはいけない」という論理に従うことは、非常にむつかしいことなのだ。

 高級ブランドのスターバックスの場合、会社を大きくしたかったら、違うブランド名で、たとえば、サンドイッチ専門店チェーンをつくるとか、低価格コーヒーチェーン店をつくるべきだったのだ。

 ところで、最初の「スタバと経済危機相関関係」理論には例外もある。たとえば、ロシア。バブル崩壊の規模はかなり大きかったが、スタバは6店舗しかない。それから、我が日本国はどうなのか? 2008年3月現在で776店舗もある。金融センターを含む千代田区や中央区だけでも55件ある。シュルツは、「日本市場はブランド力も健在で、2010年に1000店達成する目標は変えない」と言っているが、本当に大丈夫かなあ?

 経済危機の影響は諸外国に比較して少ないとかいってたけど、対策も他国に比べるともたもたしているようだし、最終的には日本の景気回復が一番遅かった・・・なんてことになるんじゃないだろうなあ? 「スタバと経済危機相関関係」理論は日本にもぴったり当てはまったよ・・・なんてことになりませんように!!!

参考文献: 1.Daniel Gross, Will Your Recession Be Tall, Grande, or Venti?, Slate 10/20/08, 2. Mark Rice-Oxley, War and McPeace: Russia and the McDonald’s theory of war, The Guardian, 9/6/08, 3. Thomas L. Friedman, Foreign Affairs Big Mac 1, The New York Times, 12/8/1996, 4. Andrew Ward, Financial Times, 2/26/07, 5. Coffee Wars, Economist 1/10/08, 6. Starbucks testing $1 coffee, free refilles, Reuters 1/23/08,7.Street debates if better days ahead at Starbucks, The Washington Times, 11/11/08. 8. Jennifer Ordonez, The Latte Wars, News week, 1 Jennifer Ordonez, The Latte Wars, News week, 1/1 Ordonez, The Latte Wars, News week, 1/11/08, 9. Bruce Horocitz, Starbucks’ New Gold Card part of holiday savings strategy, USA Today, 10/17/08,

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